商社 建設業許可「弊社は建設業許可が必要な会社ではないでしょうか。」
 
最近、こういったお問い合わせを商社の方から最近いただきます。
 
現場に従事する従業員の方が同業他社やメーカーから建設業許可を取得していないことにつき指摘されて不安に思って問い合わせという流れが多いようです。
 
しかし役員は
 
「うちは商社であって建設業ではない。自分が若い時に建設業許可を取れなんて言われたことは無かった」と取り合ってくれないこともよくあると思います。
 
そこでこの記事ではなぜ商社が建設業許可を取らないのか、はたまた簡単には許可が取れないのかについて建設業に特化した行政書士の考えを書きました
 
商社が建設業許可を取得することに前向きではない理由は全部で4つあると考えます。
 

①物品販売業という認識が強いから

1つ目は商社は建設業ではなく物品販売業という認識が強いことがあるためです。
 
建設業許可が必要な商社は機械をメーカーから仕入れて客先に納品している会社が該当することが多いです。
 
メーカーから仕入れて、客先に機械を納品する。すなわち機械を販売しているだけで、工事はしていない。よって物品販売業に該当するという主張ですね。
 
物品販売業とは物品を販売し、その対価を得る事業です。
 
しかし、商社が機械を販売する際にはその機械を納品してそれで終わり、ということはないですよね。
 
その納品先で機械が正常に動作するように組立てたり、倒れてないように安全に固定して設置するといったサービスも対価に含まれていませんか
 
だとすれば物品販売だけではく組立、設置という技術的なサービスを含めて提供することで完成と言い換えることが出来ます
 
つまり請負っていると言えます。
 
上記のケースでは単純な物品販売業という主張には無理があるでしょう。物品販売業に該当するためには納品先のお客さんが自らその機械を組み立てて、作動させることが最低でも必要だと言えます。
 
もし建設業の請負であれば、商社が元請となり施工管理をして、下請業者が現場で機械を組み立てて設置をしていることが多いです。そして客先への完成責任を元請が持ち、下請業社に設置に対する代金を支払う。
 
これは立派な建設工事といえるでしょう。
 

②専任技術者の確保が難しいから

2つめは専任技術者の確保が難しいからです。
 
もし商社が建設業許可を取得しようとしても、簡単には許可が取れる体制ではないことが多い印象を受けます。
 
理由としては現在働いている従業員が建設業許可を見越した人材ではないからです。
 
例えば建設業許可を取得するためには専任技術者が必要になります。商社が扱う機械にもよりますが業種的には機械器具設置工事業、電気工事業、とび土工コンクリート工事業が該当することが多いでしょう。
 
すると電気工事施工管理技士や土木施行管理技士などの有資格者が必要です。
そういった有資格者が既に商社で働いていれば問題ありません。
 
しかし建設業許可を必要とする認識のない商社には施工管理をする意識がないため、該当する従業員が現時点では雇用していないといったケースが多々あります。
 
また全国展開している商社であれば取扱う機械設備の仕入金額も大きくなり、支店ごとに許可を取る必要もでてきます。すると支店毎に専任技術者が必要な大臣許可が必要です。
 
ただでさえ専任技術者になれる者がいないのに、場合によっては特定の専任技術者要件を満たす技術者を複数人確保しないといけなくなるわけです。
 
だったら今まで通り、許可は要らなくてもいいのではないか、と判断する流れでしょうか。
 

③500万円未満の工事実績証明が難しいから  

3つ目は500万円未満の工事実績が証明することが難しいからです。
 
常勤役員や専任技術者を自社の従業員が今まで積んできた実績を用いて証明する場合には、最低でも過去5年分の実績を提出しないといけません。
 
すると無許可期間に施工管理した工事の契約書や請求書を提出する必要があります。
この無許可期間中は機械設備代金&税込で500万円以上の実績は提出することが出来ません
 
建設業法で無許可だと請負代金が500万円以上の工事は施工してはいけないから、工事実績として認めないというスタンスを取る自治体が多いです。
 
中には東京都のように条件付きで認めることもありますが、(無許可で500万円以上の請負工事をしていても許可は取れる?)基本的には認められることは難しいでしょう。
 
重複しますがこの500万円の中には機械代金も込みです。機械の金額だけで500万円を超していれば、その時点で建設業法違反になります。
 
実績証明に必要な請求書や契約書の件数は申請する自治体にもよりますが、(東京都や埼玉県であれば3ヶ月に1件、神奈川県であれば1年に1件 etc)機械器具の代金込みで500万円の実績証明は難しいと一般的には言えます。
 
実際に私たちの事務所にも機械器具設置工事業の許可を取りたいと相談がよくありますが、自社の無許可期間を用いた実務経験で取得するのは中々大変だというのが本音です。
 
もし機械器具設置工事業の申請を自社の実績で証明することにご関心ある方はこちらの記事をご覧下さい。どれくらい大変かが分かるかと思いmす。
 
 
 

④他の関係法令の手続も発生する

最後の理由は建設業に該当すれば他の関係法令の手続も発生するためです。
 
もし商社が今までやってきた物品販売業が建設業だと考えを改めた場合、建設業許可以外にも遵守すべき関係法令が出てきます。
 
例えば次の法律です。
 
  • 労働安全衛生法
  • 労働者災害補償保険法
  • 労働者派遣法
  • 下請法     etc
 
一部重要なことを説明します。
 
労働安全衛生法とは労働者の健康と安全を確保するための法律です。建設業は労災の死亡割合が全体の3割を占めている危険な業種のため、別途厳しく規定が定められています。特に元請業社に対してです。
 
元請業社が正しく施工管理し安全を確保するためにやるべきことが具体的に書かれています。これは500万円未満の工事であろうと遵守すべき義務です。協議組織の設置であったり下請業者への指導などやるべきことが格段に増えます。
 
労働災害補償保険法、通称労災保険法に関しては、会社のオフィスとは別に建設現場ごとに労災保険料を支払わないといけません
 
建設現場毎の労災保険料は請負金額で決まります。今まで物品販売だから労災保険料を支払わなくて済んでましたが、建設業に該当するのであれば支払わないとダメということですね。更に言うと労災保険の手続をしないで事故が起きると過去2年分の労災保険料を支払うように指示をされます。
 
また納品場所を建設現場とみなすことで生じることは、自社だけではなく下請業社の従業員の分も併せて手続をして保険料を支払う義務が生じます
 
下請業社が工事現場に着くまでに怪我をしたら、通勤災害として元請業社の労災保険で治療をするのが正しい取扱になります。
 
その手続をしない、報告をしないと、労災隠しと言われてもしょうがないです。
罰金50万円以下という重たい罰則が適用されます。
 

このように建設業が絡むと関連法案が絡みます。特に安全にかかわるものが多いです。

よって手続違反には厳しい罰則があるとご認識下さい。

 

まとめ

 
以上が建設業に特化した行政書士の私が考える商社が建設業許可を取らない(取れない)理由です。
 
昔はそこまで許可がないことに厳しくなかったとよく聞くので実際にそうだったのだと思います。そして昔現場にいた方が今は取締役になり、この部分のコンプライアンスが現代の感覚とマッチしないといったことも大きな要因でしょう
 
いかがですたでしょうか。
そしてここからは私の意見になります。
 
建設業許可を取らないと、違法ですよと脅かすことは簡単ですのでそれをしたいわけではありません。
 
仮に設置が伴う機械設備の販売を物品販売業とみなしたとして、そこで事故が起きた場合どうするのでしょうか。ということです。
 
物品販売業であれば現場の労災手続はしておりません。
 
下請業社の不注意で事故が起きた、よって関与しないというスタンスは考えものです。事故が起きれば労基署が入るでしょう。下請業者が商社である元請業者に気を使ったり、勘違いで自社の労災で手続をすることがあります。申請書には事故が起きた原因や発生状況等を記載する欄があるので、実態が建設業であることはすぐに分かります。
 
結局、その時に実態は建設業とみなされれば商社である元請け業者が過去に遡り労災保険料を支払わなくてはならず、更には社会的責任を追求されるかもしれません。
 
また自社の業務を建設業と認めない限り、販売代金に安全経費を上乗せしません。結果、下請業社に皺寄せが行き安全が確保されないまま施工を進め、事故が起きた場合に悲惨な結果をもたらすといったことが生じます。
 
建設業許可を持っていない上場してる商社の有価証券報告書に明らかに設置まで伴う機械設備販売の事業が確認出来る場合、コンプライアンス意識の高い株主にはどのように説明するのでしょうか。
 
このように建設業許可を取る、取らないという判断が、500万円以上の工事を受注出来る出来ないというレベルでの話に収まらないリスクがある、ということは強く認識いただいてもよろしいかと思います。