自社で直接雇用する労働者や役員の中に専任技術者要件を満たせる者がいない場合、他社で働く者を出向契約で受け入れることで要件を満たすことが出来ます。この記事では専任技術者を出向契約者で受け入れる場合の注意点につき知ることが出来ます。
建設業の許可を取得するためには7つの要件を満たす必要があります。
その内の一つが専任技術者の要件です。専任技術者になれる者は有資格者か一定期間以上の実務経験を有する者といった能力的条件が課せられています。
また専任技術者は能力的条件だけではなく、常勤性が問われます。
常勤性とは許可を取得する申請会社で主に働いている状態です。
詳しくは専任技術者について分かりやすく解説!【建設業許可】にてご確認下さい。
これらの条件を満たす必要があるため、専任技術者は申請会社の常勤の取締役か直接雇用関係にある労働者で申請・登録されることが一般的と言えます。
しかし申請会社と直接雇用関係状態にない出向者でも専任技術者になることは可能です。ただし無条件に認められる訳ではありません。
出向者を専任技術者にて申請する場合には、注意点が複数あるのでこの記事にてご確認ください。
この記事では出向者を専任技術者に登録する場合の注意点を確認することができます。
Contents
出向契約とは
本題に入る前に出向契約の概要を確認しましょう。
出向と聞くとネガティブなイメージを持つ方がいると思いますが、必ずしもそうではありません。出向の目的としては企業間交流や人材育成などが挙げられます。
それでは出向契約とはどういう契約なのか。
それは一般的には企業が雇用契約を維持したまま、業務命令によって社員を子会社や関連会社に一定期間異動させ出向先で就労させる雇用契約のことを指します。
つまり直接雇用関係にある会社に在籍し給与を受けている労働者が、別の会社で働く状態が出向です。
在籍出向とも呼ばれ、二重の雇用関係が成立します。
給与や社会保険は直接の雇用契約にある会社が管轄し、労働の提供先は異動先の会社(出向先)です。
建設業の許可制度ではこの出向契約の異動先が申請会社の場合、専任技術者は出向契約者でも認められる取り扱いとなっている。
これが本題です。
専任技術者を出向労働者とする場合の注意点
専任技術者を出向契約の労働者で申請する場合の注意点は大きく次の2つです。
①必要な証明書類の準備
②出向の目的に逸脱しないか
それぞれ確認しましょう。
①必要な証明書類の準備
出向契約は在籍したまま(雇用契約を維持しつつ)他社で働く労働契約です。
以後、雇用されている会社のことを在籍会社、出向先の会社のことを出向先と呼びます。
専任技術者の常勤性は原則、健康保険証で証明します。
よって健康保険証が在籍会社のままだと許可を取りたい出向先の常勤性が証明出来ません。
社会保険の加入先をどちらにするのかは個別の出向契約で決めることが出来ますが、許可要件の証明書類としては不十分です。
よって出向契約者で専任技術者を申請する場合には健康保険証とは別に常勤性を証明する資料が別途必要です。
具体的には次の書類です。
(1)発令通知書
(2)出向契約書
(3)出向負担料に関する請求書及び入金資料
それぞれ確認しましょう。
(1)発令通知書
発令通知書とは、在籍会社が出向する専任技術者に対して通知する書類です。
出向先の会社、出向期間、専任技術者の名前、発令日、が確認出来れば問題ないでしょう。
(2)出向契約書
在籍元と出向先で結んだ出向契約書の写しを提出します。
一般的に出向契約書に記載する項目は次の通りです。
・出向期間
・職務内容
・就業時間、休憩時間
・出向負担金
・社会保険、労働保険
・福利厚生
・人事考課
・損害賠償
・途中解約
内容については当事者間で決めれば良いとされています。
ただし建設業の許可を取得するにあたっては、次の2点注意が必要です。
1つ目は専任技術者の給与支払負担です。
給与の大部分を在籍会社が負担して出向先が負担しない出向契約は、専任技術者の常勤性が認められない可能性が高いです。在籍元が給与を支払う場合には、最低でも出向負担金は専任技術者の給与を上回る額に設定してください。
2つ目は契約書内の職務内容です。
記載された職務内容が専任技術者の職務とかけ離れていると、それも証明書類として認められない可能性が出てきます。
こちらも厚生労働省が監修する雛形を貼っておきますのでご参考までに活用されてください。
(3)出向負担金に関する請求書及び入金資料
(2)で言及した出向負担金が実際に振り込まれているかを証明します。
出向負担金は出向先が在籍元に支払うものです。
この負担金が出向者の給与の大部分(出来れば全額)以上であることが求められます。
入金資料は通帳の写しや銀行の取引記録照会が該当し、毎月請求書が降り出されていれば、請求書と入金資料で証明します。
注意点としては出向者を専任技術者にする場合には原則、既に出向した実績が必要ということです。
これから出向労働者を受け入れるといった計画ベースでは申請が受け付けられ愛ない可能性があるということです。
許可行政庁にもよりますが、3ヶ月以上の出向実績(3ヶ月以上の出向負担金の入金確認)が必要です。
建設業許可をすぐ取りたいから出向契約を結ぶというのは、正しい打ち手ではないのでご注意ください。
②出向の目的に逸脱しないか
出向労働者で専任技術者は申請出来ると書きましたが、出向の目的に沿うものでなくてはいけません。
建設業に関わらず出向の目的は次のように規定されています。
ドラマやニュースで見るような出向は本来の目的とは逸脱するネガティブな事由も含まれていますが、本来はそうではありません。
出向する労働者とは労働条件を決める際に個別に面談をすることになりますが、上記の目的の範囲内で出向させることを必ずお伝えください。
まとめ
専任技術者を出向契約者で申請することは可能です。
しかし一般的な書類だけでは足りず、別途追加の書類が必要になります。
その書類が人事発令書、出向契約書、出向負担金に関する資料でした。
書類を準備するにあたっては本記事でご確認下さい。
また出向契約はあくまでも、期間が限定されています。許可申請の実務では契約期間は1年で提出することが多いように肌感覚では感じます。
原則、延長や更新は想定されていません。
もちろん諸般の事情や労働者の同意を得れば、再度出向契約を締結することは可能です。
つまり出向の専任技術者はあくまでも期間が定められている契約という認識を持った方が良いということです。
許可行政庁も専任技術者が出向者の場合には、常勤性に関しては通常より厳しく判断します。
出向の更新契約等を締結していないのに出向期間を超えていれば、何かしらの指導や追加の資料提出が求められることは十分ありえます。
また在籍会社には労働者の同意がなくても復帰命令権があるとされています。
もし在籍会社が専任技術者要件を欠いた場合には、出向契約を早めに切り上げたいといった相談を受けるかもしれません。
このように就航契約は直接雇用より常勤性の維持は不安定なので許可の継続には向いていないと言えます。
また出向命令は労働者にとってとても影響力のある命令です。労働者の生活の安定が危ぶまれることのないようにご留意下さい。
こう言ったこともご検討されて出向労働者を専任技術者にするかをご判断ください。
以下、建設業にかかわらず出向の一般的な注意点です。
・出向労働者と個別の同意を得たか
・就業規則に出向に関する規程はあるか
・税金と雇用保険の取り扱いはどちらの会社負担か
・社会保険の手続きをする会社の取り扱い
・解雇権は在籍会社にあること
以上です。
お疲れ様でした。