建設業許可を取得・維持するためには常勤役員等がイ(1)~(3)までのいずれかに規定する経験を有することとあります。その(2)が執行役員です。建設業法では取締役等に準ずる地位にある者といいます。この執行役員制度で建設業許可を取得する事業者が用意すべき書類と重点的に何を証明すべきかまとめました。
建設業許可を取得するためには要件を満たす常勤の役員がいないといけません。
原則は建設業を営む会社で5年以上の取締役経験があるものが常勤で1人いることです。しかし昨今、労働人口減に伴い常勤役員の条件を満たすことが難しくなってきました。
特に公開会社など取締役の任期が約2年と短く株主総会で選任されることも必要です。すると建設業法上の許可要件を満たす常勤の取締役が長く就任することが難しくなってくる場合もあります。
公開会社なので比較的大きな会社の建設業許可の維持が難しくなりますよね。
そういった経緯もあり建設業法が改正され、常勤の役員に関しては取締役以外にも認められるようになっていきました。
そのうちの一つが執行役員です。
執行役員とは会社法上の役員ではありません。労働者です。
労働者ということは会社内の人事の一つなので株主総会に関係なく導入出来、任期などの設定や対象者も柔軟に選べることができます。
それであれば執行役員制度を導入した方がいいのではと考えられた方もいるでしょう。そして実際に既に導入している事業者もいらっしゃると思います。
しかし、建設業法で求められる執行役員制度設計になっていないと常勤の役員として認められません。
あくまでも執行役員は労働者なので、権限委任が適切にされていないと発注者を保護できないからです。
そこで今回は執行役員制度を導入する場合に、求められることや注意点につきこの記事でまとめました。
執行役員制度を活用して建設業許可の維持を希望する事業者は是非一度ご確認ください。
Contents
建設業法上の執行役員
建設業法上、執行役員のことを取締役に準ずる地位にある者と言います。
建設業法施工規則第7条1号イ( 2)がそれに該当し、次のように記載されています。
建設業に関し五年以上経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者(経営業務を執行する権限の委任を受けた者に限る。)として経営業務を管理した経験を有する者
上記意味することは、執行役員としての経営業務の責任が5年以上ある者は建設業許可を取得するための建設業に係る経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有するものと認められるということです。
また経験だけではなく、取締役等に準ずる地位にある者、つまり要件を満たす執行役員及び執行役員制度があれば、取締役に5年以上の経営経験がある者がいなくても問題なく許可が維持できます。
建設業法上、求められる執行役員制度
何回も言いますが、執行役員制度は会社法などで定められた制度ではありません。
よって語弊を恐れずに言えば、会社が執行役員と任命すれば執行役員と名乗ることも出来ます。
なので本当に建設業の業務執行権限を代表取締役から委任を受けているかどうかを書類で証明することが重要です。
そのために最低限必要なことが取締役会設置会社であることです。
執行役員制度は取締役会を設置していなければ使えません。
取締役会設置会社とは
取締役会設置会社とはそのままですが、取締役会が設置された会社です。これは登記事項なので登記簿上でも確認されます。
また取締役会は最低限、取締役が3人、監査役が1人必要で、全ての取締役で構成された合議体になります。
業務執行の決定とは、事業計画の立案・予算の策定・営業活動の方針・資金調達など、会社のさまざまな事項について方針を決定することです。
また取締役会の専決事項で重要な支配人その他の重要な使用人の選任及び解任があります。(会社法362条4項)
つまり取締役会の役割である業務執行の決定をする重要な使用人(従業員)を取締役会で選定し、適切に権限委任していることが建設業法上求められている執行役員制度です。
ここがとても重要でその証明が求められます。
※支配人とはで会社に代わってその事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有している者(会社法11条)
書面で証明が必要なこと
適切な執行役員制度を導入していることを書面で証明する必要があります。
手引には必要書類の一例が書かれています。
・執行役員規定 ・業務分掌規定 ・取締役会から選任された議事録 ・組織図 ・人事発令書 etc |
色々ありますが、結局は許可行政庁は何を確認したいのでしょうか。
それは次のことです。
これらを証明します。
個人的にはそれぞれの書類の役割分担は次のものと考えています。
①取締役会の決議により建設業に関して業務執行権限の委譲を受けるものとして選任されたこと
→取締役会の議事録、人事発令書、業務分掌規程、執行役員職務権限規程
②取締役会によって定められた業務執行方針に従って代表取締役の指揮及び命令のもとに具体的な業務執行に専念すること
→組織図、執行役員規定、執行役員職務分掌規程
それぞれ確認しましょう。
①取締役会の決議により建設業に関して業務執行権限の委譲を受けるものとして選任されたこと
取締役会によって重要な使用人を選定したことを取締役会の議事録で証明します。
もちろん議事録では取締役の署名や記名押印、過半数以上の出席で過半数で成立といった要件を満たすことも必要です。
そして執行役員として選任しただけでは少し弱いでしょう。建設業に関する業務執行であることが権限委譲されていることが確認できないといけません。
なのでもし社内に建設業の契約を専門とする部門などがあれば、その部門の長である執行役員とすることを明記しましょう。その部門では具体的にどういうことを担当しているのか、ということが書かれているものが業務分掌規程です。
また執行役員は任意の制度です。会社によって権限にはバラツキがありますよね。
そこで執行役員の権限を明記した執行役員権限分掌規程なるものがあれば問題ないでしょう。
建設部門の契約の責任者、所管業務の運営、企画立案、実行、部門の財務労務に関する決定及び教育指導など書いておけばクリアになるはずです。
また取締役会の議事録だけでは足りません。
代表取締役の記名押印がある辞令も用意出来れば業務権限の移譲は証明出来るでしょう。
②取締役会によって定められた業務執行方針に従って代表取締役の指揮及び命令のもとに具体的な業務執行に専念すること
業務執行方針に従ってということと代表取締役の指揮及び命令のもとという部分は執行役員規定の目的や義務部分で確認出来ればいいでしょう。
組織図で見られることは、執行役員が代表取締役らの委任を受けて建設部門の責任者である地位であるかどうかです。
なので取締役会から部門に枝分かれして、責任者、業務執行者という形で準ずる地位で申請する者の氏名を記載しましょう。
まとめると本当に取締役会から建設業部門の業務執行者として委任を受けているのか、業務執行部分に関しては取締役同等となる制度となっていることが確認されるということです。
以上参考までに。
今後のために
執行役員制度を導入して常勤役員等を満たすことをご計画されている方は比較的規模が大きな会社が多いです。
自社で5年在任している状態を維持し続けることが難しいということが主な理由になります。
そういった会社は大臣許可を取得していることが多いので、その際提案していることが執行役員を令3条の使用人にしましょうということです。
令3条の使用人とは建設業法上の支店長です。
支店長なので役員でなく、労働者でもなれます。そしてこの令3条の使用人として働いた期間は建設業の会社の取締役として勤めていたと同等のものとして認められます。
つまり令3条の使用人を5年勤めれば常勤役員などの経営経験5年を満たせるということです。
その令3条の使用人を建設業法上の準ずる地位である執行役員として申請出来る体制を構築出来れば、5年取締役を勤めている者がいなくても許可は維持できます。
執行役員も令3条の使用人も社内の人事なので、株主総会の決議も関係なく比較的自由にコントロール出来るので、許可の維持に不安のある事業者は建設業法上の執行役員制度の導入を検討してみても良いかもしれません。
ご参考までに。