建設業許可を維持する上で、取締役の経験年数(5年)を満たす人材の維持・確保にお悩みの建設業者様からよく弊所にお問い合わせをいただきます。

 

「このままだと取締役が来年にいなくなり、許可を維持できなくなります。どうしたらいいでしょうか。」

 

一番手っ取り早い回答は要件を満たす者を新たに取締役として就任させるということですが、そんな簡単にいかないから既存の社員でどうにかしたいというのが本音でしょう。

確かに大企業で取締役の交代が頻繁に行われていると、許可の維持に課題・不安を感じるというのはごもっともでしょう。

そんな方々の疑問や不安を解消するためにこの記事を書いています。まず基本的なことと背景を確認しましょう。

建設業の許可要件として、一定年数以上の経営経験を有する常勤の取締役が必要なのはご存知の通りです。

建設業の会社で取締役等の事業主として5年以上の経験を有する者が一般的ですが、最近では法改正がされ、その方法以外にも許可要件を維持す法選択肢が増えてきています。国としては企業が建設業許可がないことで取引が出来なくなることはなるべくなら避けたいと考えると同時に、一定程度の経験をもたない方が建設業の決済をすることを規制しなくてはいけないからですね。

他にも単純に人手不足で、従来通りの基準のままだと建設業許可を失効する事業者が増えてきているからも言えるでしょう。

今は社長がいるから大丈夫だけど、今後は要件を満たす後継者がいなくなりそれが原因で倒産をするという選択肢もでできます。他にもコーポレートガバナンス等の観点から取締役が短い任期で就任&退任をする会社も建設業許可を維持することが難しいのは冒頭に記載した通りです。

そこで今回は取締役以外の立場、つまり従業員の立場で積んだ経験で経営者の要件を満たし、建設業許可を維持する方法につき解説します。

従業員であれば株主総会とは関係なく立場を維持できるので、人選をしっかりすれば許可の維持に繋がることは間違いありません。ただしこの経験を積んだことを証明するためには会社の規程や組織をしっかり管理・整理することが必要です。

取締役に起因する建設業許可の維持に課題を感じている事業者はぜひ読んでみてください。

従業員の立場で建設業の要件を満たす方法

早速ですが取締役ではない立場で建設業の経験を活用する制度につきまとめます。

建設業法上、従業員の立場でも取締役相当の経験として認められるものは次の3つです。

1. 執行役員制度 

2. 本部長

3. 管理体制

それぞれの根拠法令は次の通りです。

執行役員制度 ⇒ 建設業法施行規則第七条 第一号 イ (2)

本部長    ⇒ 建設業法施行規則第七条 第一号 イ (3)

管理体制   ⇒ 建設業法施行規則第七条 第一号 ロ(1)(2)

 

執行役員は役員では?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、従業員(労働者)の立場に該当するとお考えください。

各論については、この記事の本丸ではないので、ご感心のある方は別のコンテンツにて詳しくまとめていますのでご確認ください。

【コンテンツ】

1. 執行役員制度  ⇒ 建設業許可の準ずる地位とは?執行役員制度の導入・証明方法

2. 本部長     ⇒ 補佐する業務とは】6年以上、経営業務の管理責任者に準ずる地位|建設業許可

3.管理体制    ⇒ 直接補佐者とは?経営業務の管理体制について解説|建設業許可

 

上記の1~3で注目して欲しいことは次の2つです。

①取締役の経験ではない

②公的に証明するものがないので社内の内部資料で証明する必要がある

取締役であれば登記簿謄本で証明出来ますが、従業員に該当するため公的な書類で証明出来ません。

つまり建設業法上、取締役相当として認められる経験を積んだ従業員であるかどうかは、1~3に該当する制度、立場かどうかを社内の制度を構築し、内部資料から読み取れることが必要になるわけです。

その内部資料というのが次のものです。

 

◆従業員の立場で取締役相当の実績を証明する内部資料◆

・組織図

・職務権限規程

・業務分掌規程

・取締役会議事録

・辞令

・稟議書等

 

これらが全くなしで1~3の従業員の立場で取締役相当の経験を積んでいたと認められることは基本的には難しいとお考えください。

ではそれぞれの資料がどういう位置づけで使われるのか各資料ごとで確認しましょう。

組織図

1. 執行役員制度 ⇒取締役会直下に位置付けられていること

2. 本部長          ⇒取締役or執行役員の直下に位置づけられていること&建設業の部門に属していること

3.管理体制      ⇒担当の取締役or執行役員の直下に位置づけられていること&建設業の部門に属していること

職務権限規程

1. 執行役員制度 ⇒執行役員の権限
(建設業部門に関して業務執行権限の委譲を受け、かつ、取締役会によって
定められた業務執行方針に従って代表取締役の式および命令によって行うこと)

2. 本部長         ⇒本部長の権限(経営業務全般を補佐していること)

3. 管理体制        ⇒なし

業務分掌規程

1. 執行役員制度 ⇒建設業部門の職務内容

2. 本部長         ⇒建設業部門の職務内容

3. 管理体制      ⇒建設業の部門の中の部の職務内容

取締役会議事録

1. 執行役員制度 ⇒執行役員(重要な使用人)に選任したこと

2. 本部長         ⇒なし

3. 管理体制      ⇒なし

辞令

1. 執行役員制度 ⇒執行役員に選任されたこと(部門と日付を明記・期間分)

2. 本部長    ⇒本部長に就任したこと(部門と日付を明記・期間分)

3. 管理体制   ⇒建設業の部門の中の部に属していたこと

稟議書等

1. 執行役員制度 ⇒職務権限を行使したことの把握

2. 本部長          ⇒職務権限を行使したことの把握

3. 管理体制       ⇒担当業務に従事したことの把握

以上です。

これら資料がないと絶対に認められないわけではありませんが、正しく出来たものが用意できるのであれば従業員の立場として取締役相当の経験を積んだと認められる可能性は高いと経験則上言えます。活用したい方は導入必須とお考え下さい。

具体的な対策・手段

以上が従業員の立場でも取締役相当の経験として認められるものとその証明方法でした。

ではこれらを活用し、取締役以外のもので、なるべく許可要件を満たす者を最大化する場合にはどうすればいいでしょうか。

それは次の2つです。

◆許可要件を満たす者を最大化する方法◆

①令3条の使用人の実績を活用する

②支店にも本部長と管理体制を敷く

 

それぞれ確認しましょう。

①令3条の使用人も活用する

令3条の使用人とは本店以外にも営業所の許可を取得している許可業者になるために必要な人員です。

一般的には支店長と同義と考えられ、就任・退任するにも届出が必要になります。この令3条の使用人を務めた期間は建設業の取締役相当と同じ期間の取り扱いです。

つまり令3条の使用人を5年勤めれば取締役5年の実務経験を満たせていると言えます。

よって現在許可業者の方で支店で許可を取得していない場合には、許可を維持する方法として支店を設置して令3条の使用人を配置して経験を積ませるという考え方もあるということをご認識ください。

②支店にも本部長と管理体制を敷く

本コンテンツで紹介した内容は本社だけではなく、支店で積んだ経験でも認められます。

例えば東京都を本店として、大阪の支店も営業許可を受けている大臣許可業者の場合を考えましょう。

その場合、規程がしっかり作成できていれば東京の本社だけではなく大阪で積んだ本部長の経験も認められるということですね。そうすれば大阪の令3条の使用人と大阪の本部長の経験者が2人、取締役相当の経験を積んでいるといえるわけです。

取締役の交代に頭を悩まれている事業者さまは支店ごとに体制を作成することも検討しましょう。

注意点

これら方法を活用して従業員の立場で取締役相当の経験を積む方を増やしていこうとお考えの事業者さまは次のことをご注意ください。

それは次の2つです。

◆許可要件を満たす者を最大化する方法の注意点◆


(1)最終的にはその方が取締役または執行役員になる必要がある

(2)執行役員は一人しか経験出来ない

(3)欠格要件の対象者

(3)本部長の経験は6年だが合算出来る

 

それぞれ確認しましょう。

 

(1)最終的にはその方が取締役または執行役員になる必要がある

経験を積むことは従業員の立場で構いませんが、令3条の使用人、執行役員並びに本部長の経験を活用して許可を維持する場合には、最終的にその者を常勤の取締役として就任させることが必要です。

執行役員でも認められますが、執行役員制度は取締役会設置会社でないと導入出来ません。つまりある程度規模感のある会社じゃないと建設業法的には認められません。

よって基本的には取締役として就任させる必要があるということご認識ください。

(2)欠格要件の対象者となる

上記と関係しますが、取締役になるということは建設業許可を取得する要件の一つの欠格要件に該当します。

欠格要件とは禁錮刑以上の処分を受けたことがないや反社会的勢力と関係がない人物といった条件です。

そんなこと普通に生活しれいれば関係ないと思うかもしれませんが、例えばスピード違反で検挙され執行猶予付きの懲役刑を受ければ、欠格要件に該当し許可は取り消しです。このようなリスクを孕んでいることを念頭に人を選任することも注意が必要です。

(3)執行役員は一人しか経験出来ない

執行役員で経験を積む場合には、基本的には執行役員は何人も選任されることは考えられません。

理由としては建設業の事業部門に関する事業執行に係る権限委譲を受けていることが要件だからです。

つまり取締役の経営と執行とい業務の執行部分を重要な使用人として取締役会に選任され、代表取締役の指揮命令下で具体的に業務執行しているということなので、その執行者が複数人いることは一般的には考えにくいでしょう。

逆に言えば執行役員制度で許可を維持する場合には、従業員の立場で取締役相当の経験を積むには令3条の使用人か本部長しかないので、規程をしっかり揃える必要があります。

とはいえ審査機関にもよって執行役員の権限が横並びで2人いるといえば認められたケースもあるのですが、基本的には例外だったと個人的には思っています。

(4)本部長の経験は6年だが合算出来る

本部長の経験のみだと6年間の補佐した経験が必要です。

では過去に本部長を2年経験した人が現在取締役を3年務めている場合に、その人が取締役になれば許可要件を満たすのでしょうか。

答えはNOです。

合算は可能ですが、本部長の補佐した経験を含む場合には合計で6年必要になります
つまり上記の令でいえば4年の取締役経験があれば認められるということです。

以上です。

まとめ

建設業許可維持の新たな選択肢として、取締役以外の従業員経験を活用する方法をまとめました。

執行役員、本部長、管理体制といった立場、制度で建設業に関する業務経験を積むことが可能であり、これらの経験は取締役と同等のものとして認められるとされています。

重要なことは、組織図、職務権限規程、業務分掌規程などの社内資料によって、これらの従業員が取締役相当の職務を遂行していたことを証明できる体制を整備し証明出来るようにすることです。

また、令3条の使用人の活用や、支店における本部長・管理体制の設置も、許可要件を満たす人材を増やす上で有効です。ただし、これらの経験を活用するには、最終的にその者が取締役または執行役員になる必要があり、欠格要件にも注意が必要です。

ご不明な点がございましたらお気軽にご連絡ください。お疲れ様でした。