この記事の要約
建設業許可の取得要件に、建設業に係る経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有するものとあります。そのうちの一つに適正な経営管理体制があります。これは取締役1人の経験では満たせないが、チームだったら満たせられるといったものです。設立直後の会社は対象外ですが、ある程度の規模感のある会社であれば対象となり得るので、取締役を選任することに悩んでいる会社は一度ご覧下さい。

建設業許可は取得した後も、許可要件を満たし続けないといけません。

その許可要件のうちの一つに常勤役員等があります。

常勤の役員等とは一定年数以上の経験を有する者でないといけません。

しかし今までの基準で許可を継続することは労働力人口が減ってきたこともあり難しくなってきました。

そこで建設業法が令和2年10月に改正され、許可を維持する選択肢が増えました

具体的には次のように改正されました。

 

【改正前】「経営業務の管理責任者がいること」
           ⇩
【改正後】「経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有すること」

 

これは何を意味するかと言うと、取締役1人では要件を満たせないがチーム体制にすれば要件を満たせる選択肢が生じたいということです。

改正前までは取締役が1人で要件を満たせないといけませんでした。改正後は取締役一人では満たせないケースでも経験豊富な従業員が、その取締役を支える管理体制となっていれば要件を満たすということです。

そしてこの管理体制、つまりチームとなって取締役を支える人を直接補佐者といいます

直接補佐者の恩恵を受ける会社は比較的規模の大きい公開会社です。公開会社は取締役の任期が約2年と定められており、取締役として株主総会で選任されないといけません。

つまり非公開会社と違い、自らの意志で取締役を長期的に務めることが比較的難しいですよね。そうなると、取締役1人では満たせないが、直接補佐者を置けば要件を満たせるということがメリットになるということです。

常勤役員1人で要件を満たし続けることが難しいと感じでいる事業者さんは一度ご一読ください。

経営業務の監理体制とは?

経営業務の管理体制とは簡単に言うと、1人では常勤役員等の要件を満たせない役員を古株の従業員が支えるチームです。古株の従業員のことを直接補佐者と言われるものです。

つまり、1人だけでは要件を満たせない役員+直接補佐者のチームを組めるのであれば常勤役員等の建設業許可要件を満たします

ただ当然ですが、役員や直接補佐者は誰でも良いわけではありません。

彼らにも過去の特定の建設業に携わった経験が要件として課せられ、それを満たしていることを証明しないといけません。

また過去の経験が認められたとしても許可後も経営業務の管理体制として認められるような組織として制度が構築されているかも重要です。

そこで経営業務の管理体制を導入するために理解べきことを2つのステップにわけます。

◆経営業務の管理体制を理解する2つのステップ◆


①役員と直接補佐者の経験要件

②適切な経営業務の管理体制の構築

 

それぞれ確認しましょう。

①役員&直接補佐者 それぞれの経験要件

経営業務の管理体制のメンバーとして認められるためには一定年数以上の経験が必要です。

まずは役員からです。

役員の経験要件

役員の経験要件は次のうちいずれかのパターンを満たすことが必要です。

◆経営業務の管理体制 役員の経験要件◆

 

パターン1 :

建設業に関し、二年以上役員等としての経験を有し、かつ、五年以上役員等又は役員等に次ぐ職制上の地位にある者(財務管理、労務管理又は業務運営の業務を担当するものに限る。)としての経験を有する者

パターン2:

五年以上役員等としての経験を有し、かつ、建設業に関し、二年以上役員等としての経験を有する者

※ 個人では、他の事業者に在籍せず、事業主であったこと

 

それぞれ確認しましょう。

パターン1 建設業に関し、二年以上役員等としての経験を有し、かつ、五年以上役員等又は役員等に次ぐ職制上の地位にある者(財務管理、労務管理又は業務運営の業務を担当するものに限る。)としての経験を有する者

建設業の会社で取締役又は取締役会から権限移譲を受けて執行役員を2年以上務めたことがまず必要です。

それに加えて建設業の役員の直下の職制上の地位にいた期間があること。

これら合算して5年あれば役員の要件を満たせます。

役員に次ぐ職制上の地位とは、簡単に言うと役員の直下で業務をサポートするような部長などがイメージしやすいです。

なおかつその部長が属する部門は建設業を管轄する部門で建設業に関する財務管理・労務管理・業務運営のいずれかに従事していた期間が該当します。

(例:役員等4年+次ぐ地位1年でも可)

パターン1 証明書類

上記の経験を証明するために必要な書類を確認しましょう。

まずは役員からです。

役員としての経験


・建設業許可証の写し等

・建設業の会社の登記簿謄本等

役員の経験は建設業の事業者の経験でないといけません。

事業者なので法人だけではなくもちろん個人事業主も含みます。

許可会社であれば登記簿謄本と許可証の写しで2年以上あれば証明終了ですね。個人であれば税務署に受付された期間分の確定申告書と許可証です。

許可は持っていなかった期間を使う場合には、証明したい期間分の工事の契約書などを用意する必要があります。

ちなみに役員などには執行役員も含まれますが、執行役員の期間を証明するとなると必要書類がグンと増えます。
執行役員の経験、必要書類についてはこちらの記事でご確認ください。

建設業許可の準ずる地位とは?執行役員制度の導入・証明方法

次に役員に次ぐ職制上の地位であったことを証明する書類を確認しましょう。

役員に次ぐ職制上の地位であったこと

次に役員に次ぐ職制上の地位であったことの証明書類です。

・組織図

・業務分掌規程、事務分掌規程等


・人事発令書、辞令


・被保険者記録照会回答票

組織図とは役員や部門などの指示系統、担当をビジュアル化したものです。

つまり役員や取締役会の直下に、この常勤の役員が書かれていないといけません。役員を直接サポートしている、役員から直接指示を受けているポジションであることが求められるからです。

一番上が代表取締役であれば真ん中の3つの黒丸が役員に次ぐ職制上の地位でしょう。

次に業務分掌規程です。

業務文章規程とは、その会社のその課や部門では何の業務を取り扱っているかを明示したものになります。

例えば建設部門があれば、建設部門ではこういった業務が担当ですということが書かれています。そこに具体的な事務も書いていれば建設業法的には文句ないでしょう。例えば建設業に関する財務管理及び業務運営に関することなどです。

それが用意できた上で、その建設業を担当する部門に何年属していたかも証明しないといけません。

そこで人事発令書や辞令を活用します。

人事発令書の日付がスタートになり、任期が定まっているのであれば更新する形で必要年数以上準備して集めましょう。

被保険者記録照会回答票とは、その会社に厚生年金に加入していた期間を客観的に証明する書類です。申請会社に在籍していたことを証明しましょう。

個人事業主であれば確定申告書で専従者給与を受けていたかどうかで代表者に次ぐ職制上の地位と在籍期間を判断する自治体が多いようです。

以上です。

今回のパターン1に当てはまる方はしばらく建設業の事務方のトップを勤めていた部長が取締役になって2年以上経ったというところでしょうか。

パターン2 建設業に関し2年以上の役員+この期間と合わせて5年以上となるように、役員又は権限を委任された執行役員等であったこと(業種限定せず)

これはパターン1よりイメージしやすいです。

まずは建設業の役員又は権限移譲を受けた執行役員を2年以上務めていること。

それに加えて建設業以外の業種で役員を務めていたこと。

これらが合算して5年以上あれば条件を満たせます。

建設業以外の取締役経験が豊富な方が対象になるイメージです。

権限委譲を受けた執行役員制度は、取締役会設置会社以外の経験は認められないので注意しましょう。

パターン2  証明書類

上記経験を証明するためには原則、次の書類が必要です。

まずは役員からです。

役員としての経験


・建設業許可証の写し等

・建設業の会社の登記簿謄本等

役員の経験は建設業の事業者の経験でないといけません。事業者なので法人だけではなくもちろん個人事業主も含みます。

許可会社であれば登記簿謄本と許可証の写しで2年以上あれば証明終了なのは申し上げた通りです。個人であれば受付された期間分の確定申告書と許可証も同様にお考え下さい。

許可は持っていなかった期間を使う場合には、証明したい期間分の工事の契約書などを用意しましょう。

次に建設業以外の役員であったことを、証明する書類を確認しましょう。

建設業以外の役員であったことを、証明する書類

・登記簿謄本など

取締役の就任日、退任日で判断されます。
個人事業主は確定申告書です。

許可を受ける自治体の中には登記簿謄本以外にも被保険者記録照会回答票など在籍当時常勤であったことを求めるところもあるので申請する自治体に確認しましょう。

このパターン2では建設業の取締役経験が2年、他の業務の取締役経験が3年以上ある方が想定されます。

もちろん建設業の取締役経験が4年、他が1年以上でも大丈夫です。

これで経営業務の管理体制のうちの役員に関する要件は以上になります。

直接補佐者の経験要件

役員が終わりましたので、次に直接補佐者です。

本来、建設業の取締役経験が1人で5年以上あれば管理体制といったチームにする必要はありません。

上述した通り、1人では5年の経験がない人をチームで支えることで許可要件を満たすのが今回の趣旨です。そしてこの支える人を直接補佐者と言うんでしたね。

では直接補佐者として認められるためにはどんな経験を求められるのでしょうか。

そこで経営業務の管理体制を導入するために理解べきことを2つのステップにわけます。

◆直接補佐者の要件◆


建設業に関し5年以上、申請会社において、財務管理・労務管理・業務運営に携わる部署に在籍し、業務経験を積んだこと

 

それぞれ確認しましょう。

役員の経験はこれから許可を受ける会社や経営管理体制に変更する以外の会社で詰んだ経験も認められていました。つまり外部から呼べばよいわけですね。

しかし直接補佐者の経験は申請会社の経験のみです。

申請会社で5年以上働いている人でないと原則的には該当しません

申請会社で5年以上、建設業の財務管理・労務管理・業務運営に携わっていたことが直接補佐者として認められるための要件です。

この直接補佐者の経験を積んだ際の職層(職位)は問いません

つまり部長でも課長でも平社員でも事務担当者として経験でも5年に認められます。

直接補佐者の証明書類

例によって、上記経験を書面で証明しないといけません。

どんな書類が必要になるのでしょうか。

直接補佐者の経験証明書類

 

 

・略歴書

・業務分掌規程

・人事発令書、辞令

・稟議書

・被保険者記録照会回答票

略歴書は申請書の一部に含まれるので手引きを参考に作成しましょう。

業務分掌規程は説明した通りです。建設業の財務、労務、業務運営はどこの部門や課が担当しているのかを証明するために必要になります。

人事発令書、被保険者記録照会回答票はいつから在籍してその業務に携わっていたのか期間証明に必要です。

稟議書は実際に携わっていたことの証明です。職位によってはないと思うので、会議の議事録など直接補佐者の名前が確認できる資料を用意しましょう。

以上です。

ちなみに財務、労務、運営業務と3つありますが、3人でそれぞれ5年の経験がある人でチームを組んでも良いですし、1人が3つの経験を5年以上していたでも大丈夫です。

②適切な経営業務の管理体制の構築

現状、貴社は経営業務の管理体制の要件を満たす人材がいるとします。

しかし、それだけでは許可要件として足りません。

この経営業務の管理体制は役員1人では要件を満たせない者を建設業務に5年以上働く古株の従業員がサポートする体制と申し上げました。

このサポート体制は役員直下に配置する必要があります

つまり直接補佐者は部門のトップの地位になることが必要ということです。

直接補佐者の意味は、常勤役員等を直接に補佐する者(職制上の地位)です。経験は平社員でも良いですが、建設業法上の直接補佐者になるのであれば平社員では認められません

これが申請現在時点で、管理体制として実現出来ていることを証明するということです。

現在の経営業務の管理体制 証明書類

現在の適切な経営業務の管理体制の必要書類は次の通りです。

・組織図

・人事発令書

・健康保険証

組織図では常勤役員等を直接に補佐する者(財務管理・労務管理・業務運営)の現在の立場 を記載します。

現在の地位として、組織体系上及び実態上常勤役員等との間に他の者を介在させることなく、当該常勤役員等から直接指揮命令を受け業務を常勤で行う地位にあることが強く確認されます

ここめちゃくちゃ大事です。
会社がこの体制でオッケーとならないと、経営業務の管理体制で申請することは出来ません。

人事発令書はその財務管理、労務管理、業務運営の担当部門のトップとして任命されたことを確認します。

健康保険証は申請日時点で常勤で働いていることの証明です。

以上です。

まとめと注意点

建設業法が改正されたことにより、役員1人ではなくても複数人の管理体制で建設業許可を取得及び維持出来ることになりました。

そのチームで支える古株の社員を直接補佐者といいます。

直接補佐者は申請会社で建設業の財務管理、労務管理、運営業務に5年以上従事していることが要件です。

この経験は平社員で積んだ経験でも認められますが、直接補佐者として申請する場合には管理・業務部門のトップにならないといけません。

トップになるだけではなく、取締役直下で直接指示を受けること、つまり他者を介在させないことも条件です。

また役員の経験は他社経験も認められますが直接補佐者はダメです。唯一、申請会社の経験として認められる例外として吸収合併等により、過去に所属していた会社と申請会社の間で経営上の連続性があると認められる場合に限り、消滅会社での経験です。

つまり原則、この経営業務の管理体制を申請できる会社は少なくとも、会社設立してから5年以上経っていないと対象となりません

設立当初で許可を取得したい事業者は常勤役員は1人でしか認められないということです。

他に特筆すべき点としては、直接補佐者は欠格要件の対象外です。また役員の経験は令3条の使用人であった期間も使えます。

該当者を探す際にお役立て下さい。

最後になりましたが、直接補佐者の証明書類は公的な書類ではなく社内資料です。

あくまでも今回記載した資料は一例に過ぎません。本コンテンツで記載した資料がなくてもすぐに諦める必要はありません。

もし許可の維持を管理体制に変更したい場合には、将来に向かって適切な体制を構築することも必要なので、専門家に相談の上進められてください。

お疲れ様でした。