建設業法には一括下請の禁止という規定があります。(建設業法22条)

その例外規定として特定の工事を除き、施主から書面により一括下請を丸投げする旨につき承諾を得られれば違法性が阻却されるといったものがあるのはご存じの方も多いでしょう。
(22条3項)

一括下請の禁止が除外されると聞くと、元請業者の中には自社は工事に関与しなくていい、主任技術者や監理技術者を配置しなくて良い、全部下請け業者に任せて良いという発想になる方もいらっしゃいます。

しかし、そうではありません。

一括下請の禁止が除外されたとしても、建設業法上、定められている元請業者の義務や現場に施工上の管理を司る技術者の配置義務は適用されます。

よって発注者から書面で承諾を得たとしても、義務や責任は一括下請負する前と大きくは変わりません。

つまり一括下請の禁止に該当しないように発注者から承諾を得ても文字通りの丸投げは認められないということです。

このように禁止の除外という表現に誤解を招きやすい部分があります。

もしここを誤解しているとトラブルに繋がる可能性あがあるので、ここまで読んで心当たりのある方は自社が誤解していないかこの記事にてご確認されてください。

一括下請負の禁止とは

まずは定義を確認してみましょう。

以下、国土交通省の通知文から一次抜粋しました。

建設業者は、その請け負った建設工事の完成について誠実に履行することが求められています。

したがって、元請負人がその下請工事の施工に実質的に関与することなく、以下の場合に該当するときは、一括下請負に該当します。

① 請け負った建設工事の全部又はその主たる部分について、自らは施工を行わず、一括して他の業者に請け負わせる場合

② 請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の建設工事について、自らは施工を行わず、一括して他の業者に請け負わせる場合

それぞれ確認しましょう。

① 請け負った建設工事の全部又はその主たる部分について、自らは施工を行わず、一括して他の業者に請け負わせる場合

①についてはイメージしやすいのではないでしょうか。

自社が請け負った主たる業種に該当する建設工事を他社に施工させることですね。

全て丸投げするパターンは当然一括下請負に該当しますが、附帯工事のみ自社が施工することも一括下請の禁止に該当する可能性があります

例で確認しましょう。

・建築物の電気配線の改修工事において、電気工事のすべてを1社に下請負させ、電気配線の改修工事に伴って生じた内装仕上工事のみを元請負人が自ら施工し、又は他の業者に下請負させる場合

・戸建住宅の新築工事において、建具工事以外のすべての建設工事を1社に下請負させ、建具工事のみを元請負人が自ら施工し、又は他の業者に下請負させる場合

② 請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の建設工事について、自らは施工を行わず、一括して他の業者に請け負わせる場合

②はイメージにしにくいので早速、例で確認しましょう。

・ 戸建住宅10戸の新築工事を請け負い、そのうちの1戸の建設工事を一社に下請負させる場合

・道路改修工事2キロメートルを請け負い、そのうちの500メートル分について施工技術上分割しなければならない特段の理由がないにもかかわらず、その建設工事を1社に下請負させる場合

①②ともに、元請業者がこうすれば一括下請負に該当しないからということを事前に防いでいるような意味合いに読み取れますね。

実質的に関与とは


国交省の通知文には元請負人がその下請工事の施工に実質的に関与することなく、以下の場合に該当するときは、一括下請負に該当します。とありました。

形はどうであれ元請業者として施工等に関与していないと判断されれば一括下請の禁止に該当するということです。

ではこの禁止の例外規定はどう考えるのか。

それは、本来元請業者として自ら行うべきことを、条文上の条件を満たして下請業者にしっかり任せられるのであれば、一括下請負の禁止に対する禁止だけは適用しない(違法性は無い)ということなんですね。

他の元請責任が無くなりましたとはなりません。

言い換えると一括下請負しても施工などに間接的には関与する義務(任せる責任)はあると言えます。ここがこの記事の核心です。

あくまでも一括下請負の禁止は適用しませんとしか書かれていないということにつきご認識ください

それでは実質的に関与とは何かを確認しましょう。

「実質的に関与」とは、元請負人が自ら施工計画の作成、工程管理、品質管理、安全管理、技術的指導等を行うことをいい、具体的には以下のとおりです。

(ⅰ)施工計画の作成:請け負った建設工事全体の施工計画書等の作成、下請負人の作成した施工要領書等の確認、設計変更等に応じた施工計画書等の修正

(ⅱ)工程管理:請け負った建設工事全体の進捗確認、下請負人間の工程調整

(ⅲ)品質管理:請け負った建設工事全体に関する下請負人からの施工報告の確認、必要に応じた立会確認

(ⅳ)安全管理:安全確保のための協議組織の設置及び運営、作業場所の巡視等請け負った建設工事全体の労働安全衛生法に基づく措置

(ⅴ)技術的指導:請け負った建設工事全体における主任技術者の配置等法令遵守や職務遂行の確認、現場作業に係る実地の総括的技術指導

(ⅵ)その他:発注者等との協議・調整、下請負人からの協議事項への判断・対応、請け負った建設工事全体のコスト管理、近隣住民への説明

元請業者としては、これらをどのように下請け業者が行うのか、行ったのかを確認し、それを記録として保存しておくことがコンプライアンス上重要です。説明責任を果たせるようにしましょう。

一括下請負した場合、配置技術者はどうする?

一括下請負の禁止に該当しないことと、元請責任は別だと書きました。

元請業者は下請け業者が実質的に関与している以上、施工管理に対しては確認、関与することが求められます。

では元請業者が現場に配置する技術者はどうなるのでしょうか。

現場に配置する技術者について簡単に確認しましょう。

 

許可を請けている業種の全ての現場 ⇒ 主任技術者

上記の条件かつ4000万円以上 ⇒ 専任の主任技術者

下請業者に4500万円以上発注している現場 ⇒ 監理技術者

 

詳しくはこちらの記事で。

主任技術者、監理技術者の専任性が生じる具体的請負金額は?【令和5年改正】

結論から言うと、申し上げている通り一括下請負の禁止が除外されても配置しないといけません。元請業者でも建設業者でなくなるわけではないからですね。

大事なことなので重複して書きますが、一括下請負が認められても、元請業者としての義務も技術者を配置する義務はあります

配置技術者は施工管理を司る者で次のような役割、職務が期待されています。

これらは一括下請負したとしても行うということですね。

しかし配置技術者の数には限りがあります。人手不足を理由に、一括下請負を選択した事業者からすればメリットが薄れる事業者もいらっしゃいますよね。

それでは配置技術者は一括下請負の契約をしようがしまいが同じ取扱なのでしょうか。

ここからは私見ではありますが次のように考えます。

まず配置技術者は配置する。

その上で下請業者が主導する施工管理を確認という形で関与・職務を果たし、必要に応じて現場に行くまたはリアルタイムの映像音声の手段を確保し、一括下請負をした下請業者の責任者と常に連絡を取れるようにする。

これで良いと考えています。

というのも令和6年4月から監理技術者制度運用マニュアルは改正させ、監理技術者が不在の際の適切な施工が出来る体制の例にWebカメラ等で確認することが加えられたからです。

配置技術者として関与することが法律上求められており、国土交通省の指針にもある方法で職務を全うすることは問題ないと考えるのが私の意見になります。

ご参考までに。

罰則も注意

一括下請の禁止に抵触すれば監督処分の対象で、営業停止処分になることが多いようです。

しかし、技術者を配置しなかった場合の罰則は建設業法で行政刑罰の罰金刑の対象と定められています。しかも建設業法上を根拠とする罰金刑は欠格要件に該当します。つまり許可の取り消しにまで繋がります。

現実的には前者の違反の方がケースとしては多いですが、どっちが重たい処分のリスクがあるかというと技術者の配置義務違反です。(52条)

しっかり把握しておきましょう。行政刑罰と刑法に関してはこちらの【建設業者の行政刑罰・罰則】刑法との関連性につき説明 からご確認ください。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

一括下請の禁止の例外を適用させても、元請業者が何にも関与しなくていいわけではありません。

下請業者が元請業者がすべきことをしっかりしているか確認する等、一定程度は関与することが必然的に求められ、一括下請負の例外規定に適用したとしても元請業者としての義務や責任が無くなることもないです。

特に4000万円以上の工事だと主任技術者等をその工事に専任させないといけません。原則通りに現場に行かないといけないとなると、大変です。

そこで必要に応じてWebカメラ等の通信手段を確保する体制をしきましょう、と個人的な意見に繋がります。本来は働き方改革がベースとなって出来た取扱ですが、一括下請負が法的に問題なく出来ている以上は殊更否定されることはないでしょう。

結局、全ての規定は施主である発注者を保護出来ているのかどうかが重要です

そう考えると例外規定があっても、元請責任が軽くなることはないのは当然と言えますよね。

一括下請負したとしてても、下請から工事に関して何か質問、トラブルが合った時に連絡取れない、事態を把握していないということは避けなくてはなりません。あくまでも実作業が伴う施工がなくても、下請業者が主導する施工管理等を把握する形で関与しないといけない、ということです。

もしこの記事を読むまで一括下請の禁止につき誤った認識を持っていた事業者がいらっしゃれば、これを契機にご確認いただけますと幸いです。

またその他細かい注意点を箇条書きでまとめます。

・一括下請した場合、その工事は経営事項審査の施工実績とは認められず、売上高には計上出来ない

・今回は元請業者が下請業者に一括下請する話だったが、下請業者間で一括下請することも禁止されている。その場合も同様に施主である発注者から書面で承諾を得ないといけない

・建設業の許可を持っていない業者も一括下請の禁止、例外規定も適用される