建設業許可 元請業者 義務

この記事の結論と要約
元請業者は下請業者に工事を注文する場合に遵守すべき義務が課せられています。というのも元請は下請け業者に対して立場上優位になるため、請負契約のルールを定めないと下請け業者は経済的に追い込まれるためです。具体的な遵守事項はこの記事でご確認下さい。

大きな工事を施工するためには下請け業者の存在が不可欠といえるでしょう。

本来であれば元請と下請けはビジネスとして対等であるべきですが、建設業という特性上対等ではないことは否定出来ないのではないでしょうか。

昨今では過剰供給や競争激化が原因で、元請の立場を利用して下請業者に不当な契約を結ばせる行為が法令違反だと問題となりました。

そのため、国は元請業者には適正な工事を確保し下請け業者を保護する義務を明確化します。具体的にとるべき行動が、ガイドラインで明示されました。

こし御社が既に特定建設業者であればもちろん、これから元請として工事を受注して下請けに出すのであれば必ず知っておくべきです。

このページを読むことで元請業者に課せられる義務全般を知ることが出来ます

元請業者の義務全般

特定建設業の許可を取得している事業者はもちろん、元請として工事を受注する事業所全てに課せられる義務があります。

それが次の8つです。

◆元請業者に課せられる8つの義務


①見積条件の提示

②書面による契約締結

③不当に低い請負代金の禁止

④指値発生時の留意点

⑤不当な使用材料などの購入強制の禁止

⑥一方的なやり直し工事の禁止

⑦工期変更時の注意点

⑧赤電処理の留意点

一つずつ確認しましょう。

(1) 見積条件の提示

見積を提示する際は下請契約の具体的内容を提示することが大事です。

中でも次の8つは下請け業者に明確につたえましょう。


(1) 工事名

(2) 施工場所

(3)設計図書(数量等を含む)

(4)下請工事の責任施工範囲

(5) 下請工事の工程及び下請工事を含む工事の全体工程

(6) 見積条件及び他工種との関係部位、特殊部分に関する事項

(7) 施工環境、施工制約に関する事項

(8) 材料費、労働災害防止対策、産業廃棄物処理等に係る元請下請間の費用負担区分に関する事項

自ら情報開示することはもちろん、下請け業者から上の枠内に関する質問があった場合は明確に回答しましょう。トラブルを避けるためには文書で日付を記載したものを送りましょう。

もし注文者は具体的内容が確定しない事項についてはその旨を明確に示さなければなりません。

特段な理由がないにもかかわらず、注文者が建設業者に対し具体的な事項を示さないと建設業法代19条3項に違反します。

適正な見積もり期間の設定

また下請業者が金額を見積もる際に、一定以上の見積期間を設けなくてはいけません。

施行令には次のように定められています。

・ 工事1件の予定価格が 500 万円に満たない工事
1日以上・ 工事1件の予定価格が 500 万円以上 5,000 万円未満の工事
10日以上

・ 工事1件の予定価格が 5,000 万円以上の工事
15日以上

②書面による契約締結

工事が着工される前に書面による請負契約書を作成しましょう

注文書や請書でも良いとされていますが、その場合には基本取引契約書の締結が必要です。

というのも建設業法には次の14の項目を書面で交わし、同意の旨の署名または押印をして互いに交付することが定められているからです。

◆請負契約書に必ず記載する14項目

① 工事内容

② 請負代金の額

③ 工事着手の時期及び工事完成の時期

④ 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法

⑤ 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があった場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め

⑥ 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め

⑦ 価格等(物価統制令(昭和21年勅令第118号)第2条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更

⑧ 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め

⑨ 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め

⑩ 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期

⑪ 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法

⑫ 工事の目的物の瑕疵を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容

⑬ 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金

⑭ 契約に関する紛争の解決方法

注文書や請書の場合は別途、添付資料として14の項目が確認できる書類が必要です。

③不当に低い請負代金の禁止

取引上優越的な地位にある元請負人が、下請負人の指名権、選択権等を背景に、下請負人を経済的に不当に圧迫するような取引等を強いることは禁止されています。

当該工事の地域において、一般的に必要と認められる工事原価を割り込む請負代金は禁止です。社会保険の費用も工事原価として認められています。

④指値発注時の留意点

元請業者が一方的に決めた金額で工事を締結することは禁止されています。

元請業者が下請け業者に請負金額を提示する際には、積算の根拠を示ししっかり協議をする必要があります。もちろん工事の着工前に金額を明示しなくてはいけません。

建設業 下請け ガイドライン

⑤不当な使用材料などの購入強制の禁止

注意点としてはこの規定は請負契約後に資材等の購入先を指定することを禁止している点です。

あくまでも元請業者は下請業者との関係において注文者であり、下請け業者は元請が希望する通りに施工する義務があります。その際に元請が資材の購入先を指定することは当然です。ただし指定する場合は、見積時に購入先は元請が指定する旨の記載が必要です。

禁止されている例は次の通りです。

・下請け人が予定していた価格より資材が高値になることを強制すること

・既に他店舗で購入していた資材を返却せざるを得ない状態にして、継続的な取引関係にあった販売店との関係を悪化させる

下請け業者に実害が生じることを防ぐための保護規定とお考え下さい。

➅一方的なやり直し工事の禁止

元請業者と下請業者は発注者と施工者ですが、立場上は元請の方が優位であることが一般的です。

もし元請の思い通りに工事が完成しなかった場合、優位な立場を不当に利用して下請業者に責任や費用負担を明確にせず、費用を下請け人に一方的に負担させて再度工事をやり直させることは禁止されています。

工事をやりなおさせる場合、下請け人に非がある場合を除き原則は元請業者が費用を負担します。その場合の取扱は契約変更となり、再度書面で契約を締結ししくてはいけません。

では下請け人に非がある場合とはどんなときでしょう。

次の場合とお考えください。

◆下請業者がやり直し工事をするべき場合


・下請け業者の施工が契約書面の内容と全く異なるとき

・下請け人の施工に瑕疵があるとき

これらの場合は下請業者が全額負担で工事をやり直すべきであると正当に主張出来ます。

ただし、下請業者から工事の施工内容を問われても明確に返答をせず工事が完成してしまし予想と違った!

これは下請け人には非がありません。あくまでも書面で締結した通りに下請け人が施工しなかった場合が判断のベースになります。

⑦工期変更時の注意点

書諸事情が重なり工期が予定より遅れてしまうことがあります。

その際、元請業者が工事を工期通りに終わらせるために増加した費用負担を一方的に下請け業者に負担させることは禁止です。

当初の契約では工期が終わらないのであれば、再度元請け下請け間でしっかりと協議をして契約を締結しなおさないといけません。

工期を変更する場合は、下請けと協議をして再度必要な人材やコストを考慮した金額で契約をしましょう。

⑧赤電処理の留意点

赤電処理とは元請業者が次の諸費用を下請代金の支払い時に差し引く行為です。

◆赤電処理とは


①一方的に提供・貸与した安全衛生保護具などの費用

②下請代金を支払うのに発生する諸経費(銀行の手数料)

③下請け工事の施工に伴う建設産廃物の処理費用

④上記以外の諸費用

工事を施工するにあたっては上記の経費が必要不可欠ですが、これらの取扱には注意しなくてはいけません。

例えば②の下請代金の銀行手数料を下請業者に負担させることはダメです。下請け業者としては見積もった下請代金に必要な金額として計上されていません。

他に③の建設産廃物の処理ですが、下請業者が請け負った現場で生じた産廃物を費用負担させることは禁止です。下請け業者に通常必要と認められる原価ではないからです。

赤電処理をする場合は請負契約時に下請け業者としっかり協議をして、通常必要と認められる工事原価に相当する根拠を示して契約書を作成して相互に交付するとが大切です。

まとめ

いかがでしょうか。

元請業者は下請け業者より責任が重く課せられています。それは元請業者の方が立場上優位だからです。

元請業者が自由に経済優先な判断をしていくと下請け業者にはもちろん国にとっても不利益です。ゆえに特定建設業者はさらに重たい義務、責任が課せられています。

ちなみに元請け=特定とは限りません。一般建設業の許可でも元請業者にはなれます。あくまでも一定以上の金額を下請け業者に施工させる場合に、特定建設業が必要です。

詳しくは『一般建設業と特定建設業の許可の違い。どっちをとればいい?』をご覧ください。