建設業者に強く関連する法律で言えば建設業法や労働安全衛生法、労災保険法がそれに該当するでしょう。
これら違反をすると逮捕や書類送検という言葉を新聞やニュースで見ますよね。
これってつまりどういうことなのか、今後どうなるのか、全体的に把握出来ている方はそれほど多くはないのでしょうか。
建設業法違反、例えば500万円以上の工事を無許可で受注すると、3年以下の懲役または300万円以下の罰金という罰があります。
この罰があると、無許可営業をすると誰かに警察に告げられ、または警察が店に押し寄せてその場で逮捕され事情聴取されて裁判になるのでしょうか。
感覚的に上記ケースはあまり現実的ではないと考えますよね。
それに対して工事現場で事故を起こした建設業者が労働安全衛生法違反を理由に書類送検されているケースはよくあるように感じます。事故だから?またなぜ逮捕されないのでしょうか。
このように行政法に定める行政刑罰は、直接的な刑法違反(例、窃盗罪、暴行罪etc)と比べて処分されるまでの全体的な流れや理屈をイメージしにくいと個人的には思っています。
そこでこの記事では、行政刑罰の根拠と流れを把握したい方向けに解説しました。
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刑法と刑事訴訟法を確認する
刑罰はどの法律に規定されているかというと、刑法です。
また刑罰とは国民にとって重大な不利益ですので、手続を厳格化しないといけません。その手続が規定されている法律が刑事訴訟法ですね。
刑法には罰として罰金や懲役が定められています。これがなぜ行政法にも適用されるのでしょうか。
答えは刑法8条にあります。
(他の法令の罪に対する適用)
第八条 この編の規定は、他の法令の罪についても、適用する。ただし、その法令に特別の規定があるときは、この限りでない。
この編の規定とは刑法の総則です。つまり刑法以外に罪を定めている法律があれば、原則刑法の総則を適用させるということです。
よって行政刑罰の対象となれば、原則刑法に則り手続きが進むということになります。
刑罰を受けるまでの流れ
行政刑罰にも刑罰の総則が適用される理由がわかりました。
では実際に罪を犯した場合の流れを確認しましょう。
一般的には罪を犯すと逮捕されて、留置所で被疑者として取り調べされて、検察官に身柄を送致して裁判所に対して起訴するか不起訴にするか判断されるという流れです。
しかし実は罪を犯して逮捕されるケースというのは全体でも40%程度のようで、在宅捜査や書類送検などの身柄の拘束を伴わない形で送致することが割合では多いようです。
警察も逮捕するためには逃亡や証拠隠滅の恐れが認められることが必要で、現行犯や緊急時などを除き第三者機関である裁判所の審査を経て逮捕状の発布が必要になるなど、とにかく逮捕することはハードルが高いことが理由に挙げられます。
また一言で警察といっても、刑罰という司法処分を求めることを目的に検察官に身柄を送致出来る者は限定的です。つまり警察であれば誰もが検察官に送致することは出来ません。
検察官に送致出来る警察のことを司法警察職員といいます。司法警察職員は一定の地位以上であることが求められ、その地位に満たない警察は司法警察職員の業務の補助をしているという考えです。
とはいえいくら司法警察職員といっても、中には専門家でないとその行為が犯罪に該当するかどうか分からないってありますよね。
例えば税法です。
厳密に言えば異なるのですが、脱税事件があった際に警視庁が行うより、税務署で務める職員の方が犯罪かどうかを判断することへの的確性が高いかどうかにかについて疑いはありませんよね。
そこで刑事訴訟法の190条では次のような定めがあります。
第百九十条
森林、鉄道その他特別の事項について司法警察職員として職務を行うべき者及びその職務の範囲は、別に法律でこれを定める。
すごく簡単にいうと、特別な事項については警察官ではないが司法警察職員と同等の権限のあるものを法律上定めて捜査権限を与えるということです。
この者を特別司法警察職員といいます。
つまり警察ではないが特定の分野においては、捜査権限が与えられ、犯罪と思われることがあれば検察官に送致出来る者がいるということです。
労働基準監督官は特別司法警察職員
ではこれを建設業者に近しい存在だと誰が該当するのかというと、労働基準監督官です。
労働基準監督官は労災現場で捜査して、犯罪行為があったかどうか司法的な観点で捜査します。
そこで違反が認められれば、場合によっては検察官に送致する。
なぜなら労働基準監督官は捜査権限のある特別司法警察職員だからということです。
また前述した通り、検察官に送致する=逮捕ではありません。
逃亡する恐れや証拠隠滅の危険性は一般的にイメージされる犯罪者と比べると無いので、身柄を拘束することは原則無いです。事業主や関係者から事情聴取を行い実況見分調書を作成し、証拠等と共に事件記録等の書類を検察官に送致する。
この一連の流れが労働基準監督官による書類送検です。
書類送検されたらどうなる?
書類送検後、今度は検察官からの事情聴取が行われ調書を作成します。
それらを元に起訴するか不起訴になるかが決まります。
仮に起訴するとなれば、略式起訴になることがほとんどです。略式起訴とは通常の起訴手続きを簡略化したもので事件を早期に終結させることを目的としており簡易裁判所にて行われます。
よって公判手続ではなく、出廷も弁論もなく、同意の上で100万円以下の罰金刑に処せられることが特徴です。
そしてこの略式起訴による判決を略式命令といいます。
略式命令で終結です。
もちろん略式命令でも前科がつくので出来る限り避けたいことは言うまでもありませんね。
労働安全衛生法違反では労働基準監督官が特別司法警察職員になり実況見分などを行い、検察官に送致し、公訴されれば略式起訴になる形が多いということご理解いただけましたでしょうか。
では建設業法は?
やはり建設業者は建設業法違反が気になると思います。
建設業法にも行政刑罰がありますよね。
例えば無許可営業は300万円以下の罰金または3年以下の懲役。
建設業法の特別司法警察職員は誰が該当するのでしょうか。
実はいないんです。
では誰が行政法である建設業法違反に基づく刑事罰の処分を求め、警察官に送致することが出来るのでしょうか。
それは司法警察職員、つまり一定以上の地位にある警察です。
しかし警察官が無許可営業を発見して事情聴取して~という流れはイメージ湧かないのではないでしょうか。
この場合は次のような流れになると考えます。
根拠法令は刑事訴訟法第239条2項です。
第239条 何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。
2 官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。
官吏又は公吏とは公務員です。
告発とは当事者以外の者が捜査機関に対して犯罪事実を捜査機関に申告して刑事裁判の起訴を求める行為です。
建設業法でいえば、建設業課の公務員が無許可営業を発見したら司法警察職員に連絡することが告発になります。
しかし実際そうしているかというとそうではなく、まずは行政処分である監督処分からです。
例えば営業の停止や指示処分といったことです。
これを何回も繰り返し反省をしないのであれば許可の取消が現実的でしょう。
もちろん建設業法違反で刑罰処分を受けることがないと言いたいのではありません。実際に建設業法を根拠として逮捕者はでています。
この点についてはご留意ください。
まとめ
建設業者が気になる行政刑罰につき、その流れと理屈につきお話しました。
刑法の総則は他の法律で刑罰規定があれば、原則適用されます。よって刑法に定められた手続、流れに則り検察官に送致され起訴か不起訴になるかが決まるということでした。
労働安全衛生法には特別司法警察職員の労働基準監督官がいます。
労働安全衛生法を始めとする労働関連法令に特別司法警察職員を法令にて定めていることは、国が建設業関連の労働法を重要視していることの根拠の一つです。
それに対して建設業法には特別司法警察職員はいません。
公務員が行政処分を繰り返し、態度を改めさせるケースが訴訟より多いのは明らかです。ちなみに建設業法で逮捕者が出るケースというのは私が知る限りでは次の2つです。
・談合ありきの入札のために許可を取った
・反社会勢力にお金を流すために許可を取った
建設業法で言えば虚偽による許可取得が逮捕のきっかけですが、それ以上に看過できない問題があるといったイメージだと私は捉えています。
ご参考までに。
昨今は事業者皆様のコンプライアンス意識の高まりもあり、行政書士の私も嬉しい反面、ただ罰則の事実を伝えるのではなく、なるべく現実的に回答して必要な行動を皆様に取っていただくようにお伝えする義務があると強く感じます。
過去の事例からこの違反は罰則が適用されるという基準、事例、趣旨を理解した上で適切な法的助言をお伝え出来る行政書士になれるよう日々邁進する所存です。