建設業の許可要件にある常勤役員等は文字通り常勤で働く取締役等であることが必要です。
昔、経管と言われていた者が常勤役員等と今は呼ばれています

この常勤役員等は複数社の役員を兼務していることがあります

例えば株式会社でいえば、申請会社以外にも複数社の取締役に就任して登記されているということです。この兼務自体は問題ありません。

これが建設業法の常勤役員等が絡むと問題が生じることがあります

具体的には複数社の役員を兼務する者が許可申請する会社で常勤と認められない問題です。これは既存の許可業者が常勤役員等を変更する場合も同様に注意が必要です。

どういうことか。

建設業法上、一般的に常勤性を認める資料は健康保険証でした。健康保険証から会社名が確認できる、そこから常勤性確認をするということです。つまり従来は健康保険証さえ発行出来れば常勤性証明は比較的容易に出来ていました。

しかしマイナ保険証への置き換えを目的として令和6年12月から健康保険証が新たに発行されなくなりました。
それに伴い建設業法では健康保険証では常勤性証明資料として認めず、他の書類で証明するように各自治体が取り扱いを変更しているのが現状です。

この健康保険証以外の常勤性証明書類が実は注意が必要になります

過去に一定年数以上の建設業の取締役経験を証明できたとしても申請会社での常勤性が認められない場合には申請(変更)が認められません。新たに取締役に就任させて報酬も発生し登記完了した後に認められませんでした。それでは遅いわけです。

そこでこの記事では複数社の役員を務める常勤役員等で許可申請または変更届出をする場合に、常勤性証明という点から事前に確認しておきたいことをまとめました。

申請等する許可権者(都道府県等)によって若干の取り扱いは異なりますが、どのケースにおいても事前に確認しておいて損はありません。記事内でご確認ください。

常勤性証明資料の重要確認事項 建設業法

複数社の役員を兼務する常勤役員等の現在の常勤性が認められるかどうか、事前に確認することは次の3つです。

◆常勤役員等の常勤性証明 3つの確認◆

①役員報酬の多寡

②兼務先の役員の就任状況

③手引にて常勤性を認める資料の確認

 

それぞれ確認しましょう。

①役員報酬額の多寡

健康保険証が認められなくなりましたが、基本的には申請する会社の社会保険に加入していれば認められます。

社会保険への加入証明資料として多くの許可権者が提示している資料が、標準報酬決定通知書です。なぜだかサンプルがあまり公開されていないので弊所の標準報酬決定通知書を載せます。

標準報酬決定通知書とは、納めるべき社会保険料を決定する際の月額がオレンジの部分に書かれています。オレンジの部分に300千円とあれば、30万円に該当する社会保険料を毎月納めるということです。

つまり標準報酬決定通知書にはその人のだいたいの給料が分かります

申請会社が1社だけなら、あまりにも報酬額が少ないと常勤で働いているのか確認されることはりますが、20万円程度あればそんな指摘はほぼされません。

しかし複数社の取締役を兼務している人は安心出来ません。

複数社で社会保険に加入している場合の標準報酬決定通知書は1社で加入している者とは異なり、二以上事業所勤務被保険者標準報酬決定通知書です。この書類は申請会社とそれ以外の会社の標準報酬月額、いわゆる別会社の大体の役員報酬額が確認できます。

両社の標準報酬を比較した際に申請会社の役員報酬が別の役員報酬より少ない場合には、別会社で常勤で働いていると判断され常勤性が認められないことがあります

役員報酬の多寡は比較した金額で判断する又は総合的に実態で判断するかは許可権者によって判断が異なる印象です。

手続きする前に申請先の許可権者に確認しましょう。

②兼務先の役員の就任状況

兼務先の会社の役員の就任状況も確認が必要です

経管である常勤役員は建設業法上の申請会社で常勤で働きます。となれば兼務先では非常勤です。だとすれば、兼務先には他に常勤で働く役員がいるのかどうか確認されることがあります。つまり経管である常勤役員が兼務先で非常勤役員になっても、兼務先には常勤で働く別の役員がいるのであれば認めるが、いないのであれば認めないということです。

わかりやすいケースだと、兼務先が一人代表の会社で、その代表を経管である常勤役員等を申請しようとしても認められません。

許可権者によっては別会社の履歴事項全部証明書も添付させて上で非常勤証明書の提出まで求めてきます。

ここで東京都の手引を一部確認しましょう。上の黄色枠、下の赤枠内を確認ください。

黄色枠では①で言及した役員報酬の多寡ではなく、別会社から報酬をもらっている時点で認めないということが確認出来ます。

赤枠内では複数兼務の役員を経管である常勤役員等として申請する場合に、申請会社以外で代表を務めていても、別に事務一般を掌理する常勤の取締役がいればという条件付きで認められます(令和7年度時点)。それも登記事項証明書等の証明資料が必要です、

また東京都は兼務役員を営業所技術者として申請会社で申請したい場合には、申請会社以外では別に常勤の取締役がいるだけでは足りず、非常勤の代表取締役であることの証明が必要です。逆に言えば共同代表がいない時点で他社の代表取締役を兼務していれば認めないとも言えます。

事前に確認することが必要ということをご理解いただけましたでしょうか。

申請先の許可権者によって兼務役員の取り扱いは様々ですが、次の3つに注意してご確認ください。

(1)他社で一人代表取締役を務めていないか(その会社は休眠届出を出しているか)

(2)他に平取締役がいるかどうか

(3)別会社に共同代表がいて、その代表取締役等は社保に加入し、本店住所に通える範囲に居住しているか

理由としては次の通り。

(1)は、別会社で働く取締役がいないと判断されるからです。休眠会社でもないなら現在の常勤性は原則認められません。

(2)は、別会社で平取締役がいてその者が常勤で働いているかどうかを確認して、申請する許可権者の審査基準的に常勤性として問題ないか確認してください。

(3)は、もうひとりの共同代表が申請会社以外で常勤性を確認する趣旨です。履歴事項全部証明書では代表者の住所が記載されています。海外の住所だと常勤性があるのか強く確認されたことがあるので確認しましょう。

③手引にて常勤性を認める資料の確認

実は標準報酬決定通知書以外でも現在の常勤性を証明する資料として認められるものは許可権者によって定められています。

東京都の例で言えば次の通りです。

・資格取得確認及び標準報酬決定通知書の写し

・住民税特別徴収税額通知書(従収事業者用)の写し

・(新規に設定する者に限り)特別徴収切替届出(受付印のあるもの)の写し

・直近決算の法人用確定申告書の写し(表紙(別紙一)、役員報酬明細、受信通知(メール詳細))

・厚生年金保険の被保険者記録照会回答票の写し

・(新規に設定する者に限り)資格取得届(受付印のあるもの)又はその通知の写し

・(70歳以上の新規に設定する者に限り)厚生年金保険70歳以上被用者該当届(年金事務所の受付印のあるもの)及びその通知の写し

・健康保険組合等による資格証明書(申請法人への在籍を証明するもの)(原本提出) ほか

なぜ常勤性を認める資料を確認するのかというと①と関係します。

例えばですが、厚生年金保険の被保険者記録照会回答票であれば役員報酬額は確認出来ませんが、東京都として常勤性資料として認めるわけです。もちろん常勤性があるという大前提ですが、審査をスムーズにできるのであれば役員報酬額の多寡を論点にしないほうが望ましい私は考えています。

しかしこれは東京都の場合のお話です。

埼玉県では厚生年金保険の被保険者記録照会回答票は認められません、また75歳以上でないと住民税の特別徴収切替の届出は認めていないです。

標準報酬決定通知書のみです。となると埼玉県は役員報酬の多寡が必ず論点になります。

以上のことからも、役員報酬額の多寡は必ず把握して許可権者の審査方針と照らし合わせて証明資料として問題がないか確認することが良いでしょう

業種追加、更新申請の時点でも注意

申請及び変更時点では上記の注意点に該当しなくても、いざ常勤役員等と認められてしばらくしてから複数社兼務の役員になっていることもあるかもしれません。しかし、その状態になっても許可権者から連絡が来ることはないです。であれば問題ないのではと思うかもしれませんがそうではありません。許可権者が確認すれば指摘してくるでしょう。

これが発覚するタイミングは業種追加や更新申請等の申請時です。

東京都の③で見せたように営業所技術者は他社に常勤の代表取締役がいなければ認めないといったことが明記されているケースなどはどうでしょうか。

何かしらの是正は求められると考えるのが妥当といえます。許可後も許可権者が判断する現在の常勤性に沿うようにご注意ください

他社で兼務していることを隠すリスク

申請書の添付書類には過去の経験と現在の常勤性を証明する資料を添付する必要がありますが、場合によって他社で取締役等を務めていることが分かる書類は添付することなく提出できますよね。

その場合、この記事で書いたような兼務状態であっても申請や変更は認められます。

であれば出さないのも一手になるのではないか。と考える方もいるかもしれません。

ですが、もちろんダメです。

なぜダメかというと、虚偽申請に該当するリスクがあるからです

経管である常勤役員等は略歴書を作成します。略歴書は細かに過去の実績から現在までの就業履歴を記載するものです。であれば別企業の取締役に就任しているのに、それが不記載なのであれば虚偽に該当するおそれがあります。

常勤役員等は許可要件なので、書類の一部に虚偽が絡むと大きなペナルティが想定されます。しかも常勤役員等の略歴書は閲覧可能な書類です。他社から指摘されて発覚するリスクもあります。

自治体によっては履歴事項全部証明書や証明書の提出は求めないが、略歴書に記載することで申請会社以外で非常勤の代表取締役であること確認するスタンスもあるくらいしっかりした書類です。

よって他社で取締役を務めている場合は、常勤役員等になる前も、なった後も許可権者が認める事務取扱として問題ないのか確認した上で運用されてください

まとめ

複数社の取締役を兼務している者を常勤役員等として申請または変更する際の3つの注意点、いかがでしたでしょうか。

背景としては健康保険証が資料と認められなくなってきたことで現在の常勤性証明が難しくなりました。昨今では人材不足もあり、許可を維持するためにプロパーだけでは足りずに外部から人材を招聘する機会が多くなってきたと個人的には思っております。

その結果として常勤性の証明にも気を配る必要が出てきたということです。

とはいえ今回申し上げた内容は許可権者によって事務取扱も異なりますし、温度感も異なると個人的には思っています。

複数社の役員を兼務する常勤役員等の常勤性証明について大事なことは次の通りです。

・許可権者が認める常勤性の書類、事務取扱を知る

・判断基準は絶対なのか、理由によっては認める余地はあるのか

・常勤役員等の略歴書には正直に記入する

 

心配であれば事前に専門家にご相談されることをおすすめします。お疲れ様でした。