専任技術者には実務経験が一定年数以上あることが要件にあります。この実務経験は以前働いていた会社で積んだ経験も認められますが、その場合、前の会社から資料を借りなくてはいけません。前の会社に連絡を取らずに証明したい方に向けてその方法を解説しました。
Contents
はじめに
今回お話しするテーマは「昔働いていた会社に連絡しないで実務経験を証明する方法!【専任技術者編】」です。
建設業の許可を取得するためには取得する業種の専任技術者を配置することが必要です。
専任技術者は、申請会社で常勤かつ申請業種の技術的能力を有することが求められています。
① 申請会社で常勤
② 申請業種の技術的能力を有する
その技術的能力の中に、申請業種の実務経験が一定期間以上あることが挙げられます。
例えば、その専任技術者候補が申請業種に対応する理系の学科(いわゆる指定学科)を卒業していれば3年~5年、資格もなく指定学科を卒業していないのはあれば10年間、これらの実務経験があれば専任技術者としての要件が満たされます。
そしてこの実務経験は、以前自分が勤めていた会社の実務経験も含めることが可能です。
例えば会社員として管工事を請け負う会社に技術者として7年間勤めた後に自ら管工事を請け負う会社を立ち上げて3年の実務経験を積めば、その者の管工事業の実務経験は10年間となります。
つまり、専任技術者になれる可能性があるということです。
この場合に問題となるのは、原則、過去働いていた会社に連絡を取らなくてならないということが挙げられます。
なぜなら、実務経験は書類で証明しなくてはならないからです。
先ほどの例で言うと、以前の会社が保管している7年分の管工事の契約書を借りて証明書類として使用するということです。
「えっ前の会社から書類を借りるって・・・それって無理じゃない?」と思われた方もいらっしゃるでしょう。
現に、当事務所にご依頼していただいた方からも「前働いていた会社に迷惑はかけたくないので連絡はしないでほしい」「ケンカ別れしたから絶対に連絡は取らないでください」といった、単純に前働いていた会社に連絡をしてほしくないというニーズや、
「当時働いていた経営者が辞めちゃって今の自分を知る人は誰一人いません」「以前働いていた会社は潰れたので書類はもう残っていません」というような、そもそも連絡が取れても書類を借りられない・・・というような事例もあります。
そこで今回は、限界はあるのですが以前働いていた会社と連絡を取らずに実務経験を証明する方法を紹介したいと思います。
ただし、本題に入る前に次の2点をご確認ください。
この記事の注意点
①難易度が高め
この動画でお話しする方法は、肌感覚で言うと、建設業許可で言う上級編のお話です。なので、いきなりこの動画を見ても理解できなくても不思議ではありません。
今ここまで記事をご覧いただいて「正直、あまり内容を理解できていないなぁ」と思う方はこのまま読み進めるより「専任技術者とは何か」や「建設業許可の要件につき徹底解説」をご覧いただくことをお勧めいたします。
②あくまでも例外的な取扱
2つ目の注意点は、この方法はあくまでも例外的な取扱だということです。
別動画でも言及していますが、建設業許可申請は審査する許可行政庁によって認める証明書類は千差万別です。 この記事で申し上げる方法は、比較的理にかなっている方法で当事務所が過去に申請したときに認められたものではありますが、どこにでも必ず通じる証明方法として確約するものではありません。
なぜなら「以前働いていた会社から資料を借りて証明する」が原則だからです。例外的になんとか連絡を取らずに実務経験を証明するという点につきご承知おきください。
それでは参りましょう!
実務経験の審査ポイント
まず建設業法上の専任技術者の実務経験として認められるための審査ポイントを確認しましょう。
① 常勤性の有無
② 申請業種の実務経験に該当するか
この2つを共に満たした期間が実務経験としてカウントされます。そしてこの2つのポイントを書類で証明する、これが必要です。
また、原則、実務経験証明書類は自分だけで作れるものは基本的には認められません。理由は・・・言うまでもありませんね(自分でなんとでも偽装できてしまいますからね)。
では、どのような書類なら認められるのでしょうか?
◆ 役所や公的性格の強い機関が保有する書類・データ
または
◆ 契約の相手方が保有する書類
まとめると、以前働いていた会社に連絡を取らないで実務経験を証明するためには役所・公的性格の強い機関や契約の相手方が保有するデータを取得して、以前働いていた会社で常勤性を持って申請する業種の経験に該当する工事に従事していたことを証明すると言い換えられます。
以上を踏まえ、実務経験の審査ポイントである ①常勤性の有無 ②申請業種の実務経験に該当するかの2点についてそれぞれ確認しましょう。
①常勤性
常勤性とは、わかりやすいケースで言うと「正社員として働いていたかどうか」です。
もしあなたが現場で作業員として働いていたとしても、たまに工事に参加するアルバイトや日雇労働者だと常勤性が認められない可能性があります。
建設業法上の工事は請負が想定されているので継続的に現場で働いてきた経験を認めているのだと思います。
そこで、以前働いていた会社で常勤性があったということを証明しなくてはいけません。
常勤性の証明は以下の3つの方法のいずれかの方法で証明します。
(1) 厚生年金保険の加入期間
(2) 源泉徴収票
(3) 給与明細、給料の振込確認が出来る通帳
それぞれ説明します。
(1) 厚生年金保険の加入期間
厚生年金保険は正社員として働いていれば原則加入しています。給与明細から天引きされていますよね。
当時働いていた会社で厚生年金に加入していれば、経験期間における常勤性の証明は文句なしです!その会社で厚生年金に加入していた期間が実務経験期間中の常勤性として丸々認められるでしょう。証明するためには、加入期間のデータを保有している年金事務所で書類を発行します。
最寄りの年金事務所で自分の基礎年金番号を控えて厚生年金の加入記録取得票(被保険者記録照会回答票)を取得しましょう。
会社名と加入期間が確認できれば、それで証明可能です。
厚生年金に加入していた方法で証明できた方は、これから申し上げる(2)(3)の方法については見る必要はありません。次のパートの「②申請業種の実務経験に該当するか」まで飛ばしてください。
それを踏まえ、厚生年金に加入していなかった方は(2)源泉徴収票を確認しましょう。
(2)源泉徴収票
会社から給料をもらうと年末に「1年間で会社がどれだけ給料を支払ったか」「税金としていくら天引きしたか」が書かれた明細を渡されますよね。それが源泉徴収票です。
この明細は会社が労働者に交付するよう義務が課せられています。源泉徴収票は1年に1回もしくは退職時にもらう機会があります。
在籍していた年数分用意できれば、その期間が常勤性の証明に使えます。
源泉徴収票には給料の額だけでなく誰が給料を支払ったかも書かれているので在籍確認が可能です。ただしあまりにも給与の支払い額が低いと本当に正社員並みに働いていたのか?という疑義が生じるかもしれませんので、事前に申請書の提出先である許可行政庁に確認してみましょう。
(3)給与明細、給与の振込が確認できる通帳
次に給与明細および給与の振込が確認できる通帳です。
給与明細は会社からお給料を支払われる際に渡されます。明細には在籍していた会社名も書かれています。
ただ・・・給与明細だけだと、自分で作れてしまいますよね。
なので、公の性格が強い銀行の入金記録で確認します。通帳には振込人の名義と入金日が書かれているので、金額と支払日が給与明細と一致するのであれば信頼性が高いと言えます。
この3つが、以前働いていた会社に連絡せずに常勤性を証明する代表的な手段です。
いかがでしょうか?これらの手法を使っても常勤性の証明が難しいという場合には、建設業専門の行政書士に相談することをお勧めいたします。
というのも(1)厚生年金保険の加入期間証明を除き、許可行政庁によっては(2)や(3)だけでは認めない!というスタンスを取る所があるからです。これは、(2)や(3)の常勤性を全面的に否定しているわけではありません。ただし、追加で他に何らかの書類を準備するよう求められることがある、ということです。
②申請業種の実務経験に該当するか
次に、申請業種の実務経験に該当するか、についてです。
建設業法上、業種は全部で29業種あります。許可を取得して500万円以上の工事を請負うのであれば、その請負う工事の業種の許可が必要です。
よって、実務経験で専任技術者になるためにはその業種の実務経験を一定年数以上有しているということが必要ということです。ここ、重要ですよ!
ではどのようにすれば申請業種の工事の実務経験だと認められるのか?
原則的には申請業種の工事の契約書や請求書を証明期間分準備することです。
ただし、これらの資料って当時在籍していた会社に連絡しないと手に入りませんよね?では、連絡する以外に方法はないのかというと・・・そんなことはありません!
ではどうすればいいのかというと、次の3つです。
(1)許可行政庁への問い合わせ
(2)過去の取引先へ連絡
(3)情報開示請求
以前働いていた会社に連絡せずに実務経験を証明するには
(1)許可行政庁への問い合わせ
これは以前働いていた会社が許可会社のパターンです。例えば東京都知事許可の会社であれば、東京都の建設業許可の手続きを担当する課が昔の許可会社の情報を保有しています。
具体的には事業者の
◆ 許可取得日 ◆ 業種 ◆ 廃業日
などです。
申請する許可行政庁によっては、昔の許可会社の情報が問い合わせベースで確認できてその間の常勤性を証明できるのであれば許可期間中における工事の契約書等の提出は求められません。
代表的な方法が≪厚生年金保険の加入期間≫と≪過去の会社が許可を受けていた期間≫です。
例で確認しましょう。
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■ (例)契約書等がなくても認められるパターン ■
専任技術者候補が以前働いていた会社に平成15年1月から平成28年1月まで加入していたとします。その会社は管工事業の許可を平成17年1月から平成20年3月まで持っていて許可行政庁はその情報を保有していたとします。
すると、平成17年1月から平成20年3月までの期間は管工事業の契約書を用意できなくても実務経験証明として認める、ということです。
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今申し上げたケースが実務経験として認められるかどうかは許可行政庁によって判断が分かれますので、申請する許可行政庁に確認してみましょう。
(2)過去の取引先へ連絡
次は、契約の相手先に資料が保管されているか聞く、ということです。
以前働いていた会社に連絡はしたくなくても、当時の取引先とは関係が良好なパターンです。
許可を取得するために、以前勤めていた会社と締結した工事の契約書や資料等があれば借り受けられないか聞いてみましょう。
借り受ける際には、専任技術者として申請する者が従事した工事の請求書や契約書であることが必要なのでそこもご確認ください。
(3)情報開示請求
(1)と若干重複するんですが、(1)の方法で以前働いていた会社の許可情報および常勤性が証明できたとしても、当時の工事契約書や許可通知書がないと一切認めないという場合があります。そうなると書類の有無が問題なので、例えば必要期間分の決算変更届出の工事経歴書や許可業者台帳等を情報開示請求するということです。
役所が現在保管する情報なので実務経験証明書類として認められるものがないかといった可能性を探りましょう。
また、もし以前働いていた会社で公共工事を受注していたのであれば、入札した自治体に請負工事契約書の情報開示請求をすることも有効です。
以上になります。
まとめ
ここまでお話をしてきたことが、比較的、以前働いていた会社に連絡せず実務経験を証明する代表的な方法です。
冒頭でも言いましたが、以前勤めていた会社に連絡を取らずに証明をするということは、原則ではなくイレギュラーな対応です。
つまり行政側からすれば「以前働いていた会社に連絡を取って必要な書類を借りて証明してください」というのが基本的なスタンスになります。
なので、連絡を取らずに申請するケースは許可行政庁ひいては審査官によって判断方法が分かれていても仕方がないと個人的には思います。
ただ、審査する側も合理的な方法で証明しようとする限りにおいては絶対に認めないというわけではないというような考えだと私は思っています。
この記事で申し上げたことが1つ1つでは認められなくても、以前の会社に連絡をしないで得た複数の証明書類で外堀を埋めていけばトータルで実務経験証明書類として認められる、これはあり得ることです。
なので、この記事で言っていたことを試したけれど審査官にダメだと言われて諦めるのは早いかもしれません。
何がネックだったのかが分かれば、じゃあ次はこういう書類を集めたら合理性が増すんじゃないかという形で話が進むからです。
ここらへんのことを詳しくお話しした内容が「建設業許可の裏技の正体を暴く!」です。
一見ふざけていますが、中身は証明書類をコツコツ集めていくことの重要性につき言及しています。もしご関心があればご視聴ください。