この記事の要約
個人事業主で建設業許可を取る場合にも当然に許可の要件を満たす必要があります。要件のうちの一つである、常勤役員等(経管)は原則5年以上の経営経験が必要ですが、個人で独立してから5年経っていなくても要件クリアーが可能です。それが支配人登記です。簡単に言うと常勤役員等の要件を満たしている者を雇用して、登記すればいいということです。詳しくは記事内をご確認下さい。
建設業許可の要件に常勤役員等があり、経営者として一定以上の建設業の経営年数があることが求められています。
法人であれば役員の内1人でも経営経験の条件を満たせばその役員を選任できますが、個人事業主の場合は役員という制度はありません。原則、個人事業主本人に一定年数以上の経営経験が求められます。
しかし、仮に個人事業主本人が建設業の経営年数が全くない場合、つまり独立したばかりでも、建設業の許可要件である常勤役員等の要件を満たす制度が存在します。
この記事では常勤役員等の要件を満たせていない個人事業主が、すぐに建設業許可を取得するために必須知識である支配人について説明します。
支配人とは ~建設業許可~
支配人とは会社法10条及び11条に定められている規定です。
支配人とは特定の営業所の事業について裁判上・裁判外の一切の行為を会社に代わって行う権限を有する者と定められています。つまり営業所の事業の範囲内で代表取締役と同等の権限を有している者です。
また支配人に関する事項は会社法上の登記事項に該当します。
つまり現状、許可要件を満たせていない個人事業主でも常勤役員等の要件を満たす者を労働者として雇用して登記をすれば常勤役員等の要件は満たせる。ということです。
どんな人が支配人の候補になる?
例えば次の条件を満たす者を個人事業主が雇用し、支配人登記すれば常勤役員等の要件を満たせます。
- 別の会社で経営業務の管理責任者として登録をしていた
- 支配人は独立して5年以上経っているが、建設業許可を持っていない
- 過去に建設業の許可会社で5年以上取締役を務めていた
- 建設業許可を持っていた父親 etc
ほんの一例ですが上記の者を支配人登記することは、現状常勤役員の条件を満たさない個人事業主が迅速に許可を取得するための打ち手としては効果的だと考えられます。ただし注意点としては支配人が有する建設業の経営経験が一定年数以上あることを書面や客観的な記録で証明出来る必要があることです。
建設業法では書類審査なのでそれを証明できないと認められません。必ず支配人候補が持つ書類と申請する自治体の審査方法を確認しましょう。
例えば上で述べた方を雇用する場合には次の青文字の書類が必要だと考えられます。
・ 別の会社で経営業務の管理責任者として登録をしていた →経管として申請した際の申請書や届出の控えの原本
・ 支配人は独立して5年以上経っているが、建設業許可を持っていない →支配人の期間分の確定申告書、工事の請求書や契約書 ・ 過去に建設業の許可会社で5年以上取締役を務めていた →取締役として在籍していた期間分の許可証の写し、登記簿謄本 ・ 建設業許可を持っていた父親 →許可証の写し、申請書の控え原本 |
支配人登記に必要な書類等
法務局に提出する支配人登記の申請書を作成する場合には次の書類が必要です。
自分で作成するか、司法書士にご相談下さい。
① 個人事業主(申請人)の実印 ② 個人事業主の印鑑証明書(発行後3か月以内のもの) ③ 個人事業主及び支配人の本人確認資料(運転免許証、マイナンバーカード等) ④ 支配人も印鑑を登録する場合には登録する印鑑(登録しない場合は不要です。) ⑤ 支配人個人の印鑑証明書のコピー ⑥ 支配人の印鑑(認印で差し支えありません。) |
建設業法上の注意点
支配人登記をすれば常勤役員等の要件は満たせることはお分かり頂けたと思います。
それでは次に建設業法上、支配人を用いて許可を継続する上で注意して欲しいことを5つまとめました。
それぞれ確認しましょう。
1.営業所から通える範囲内に支配人は住んでいることが必要
支配人は個人事業主が主たる営業所として登録する営業所に週に5日通うことが想定されています。これを常勤性と呼びます。
よってあまりにも遠方に住んでいると常勤性に疑義が生じてしまいますよね。
テレワークで働くこと自体は認められつつあるのですが、いつでも営業所に出社できることは未だ必須条件だと考えられています。
2.労働者として雇用するのにあたり、雇用保険に加入することが必要(同居の親族なら不要)
支配人は労働者です。よって労働者に適用される法律は適用されます。
その中でも建設業許可に関係するものが雇用保険法です。
雇用保険は週に20時間以上働く場合には加入手続義務が生じます。また建設業の許可要件にも雇用保険の加入が確認されるようになりました。
個人事業主1人だと社会保険の加入要件は適用除外されることがほとんどですが、支配人登記をする場合には雇用保険は加入義務があるので注意しましょう。
また支配人が他の会社で雇用保険に加入していれば、個人事業主の雇用保険に加入出来ないので雇用時には現在加入している雇用保険から外す手続きをするように要請してください。
ちなみに同居の親族を支配人登記する場合は雇用保険に加入しなくても問題ありません。
つまりお父さんと支配人登記して許可を取る場合には同居しているかしていないかで雇用保険の加入義務が変わるということです。
3.申請時点の常勤性を証明する資料が必要
支配人は建設業法上、常勤性を求められているのでその証明書類が必要です。
協会けんぽの健康保険証があれば、それを提出して終わりですが、小規模の個人事業主の場合には協会けんぽの健康保険には加入義務がありません。
よって他の書類を別途用意する必要が生じます。
一般的な常勤性証明の書類は住民税の特別徴収切替申込書の写しです。
こちらで現在の常勤性の証明書類として足りているか役所に確認しましょう。
4.欠格要件の対象者であること
建設業法上、役員には一つでも当てはまると許可が受けれない要件が課せられています。
それが欠格要件です。
この欠格要件の対象者に支配人は含まれています。
許可後も欠格要件は見られるので、普段の素行が荒い人には強い注意喚起が必要だと言えます。
欠格要件については詳しくはこちらの動画でご確認ください。役員を支配人と言い換えれば同じ意味です。
5.支配人は自分の名前で建設業許可を取れない
支配人は申請事業主の元で専属・常勤として働かなければなりません。
よって支配人は自分の名前で建設業で独立した事業をすることは出来ません。中には支配人登記をすることを一種の名義貸しとしてしか捉えていない方もいます。
支配人登記をするということは、個人事業主のもとで正社員として働き独立して建設業は出来ないことを伝えましょう。
まとめ
支配人登記につきまとめました。
個人事業主本人が常勤役員等の経営経験がなくても支配人が満たせていれば許可要件を満たせます。
ただしその経営経験を書類で証明出来ないといけません。申請する自治体によって求められる書類が異なるので、登記する前に必ずご確認ください。
また欠格要件の対象者でもあります。欠格要件は申請時点だけではなく、許可後も抵触してはいけません。抵触すると許可が失効します。
よって必ず支配人として登録する者にはどんなことをしたら欠格要件に該当するのか伝えておきましょう。